第23話 祭壇の再生

夏祭りが近づき、神主から新たな依頼が舞い込んだ。


「神社の祭壇が老朽化しています。村の人々が神様に祈りを捧げるこの場所を、祭りまでに修繕していただけますか?」


「祭壇……祈りの場所……」紗希はその言葉に神妙な顔をした。


「この祭壇は、村人たちが集い、感謝の気持ちを捧げる中心だ。丁寧に修繕し、神聖な場として再び蘇らせるんだ。」源蔵の言葉に、紗希は深く頷いた。


「わ、わかりました……頑張ります……」


祭壇は神社の拝殿の中にあり、木製の台座や彫刻が施されていた。しかし、長い年月が経ち、表面は傷み、装飾も一部剥がれてしまっていた。


「まずは古い塗装を剥がし、木材の傷を修復する。そして新たな装飾を彫り込み、塗り直す作業だ。」


源蔵が手順を説明すると、紗希は慎重に作業を始めた。


最初の工程は塗装を剥がす作業だった。紗希は小さな道具を使い、木材の表面を丁寧に削っていく。木の香りが漂い始め、かつての美しい木目が少しずつ姿を現していく。


「この木……まだ……生きてる……」


「その通りだ。古い塗装の下には、まだ元気な木が眠っている。それを引き出すのがお前の役目だ。」


紗希は源蔵の言葉を胸に刻み、さらに集中して作業を進めた。


次に取り掛かったのは、傷ついた部分の修復だった。小さなひび割れや欠けた部分に新しい木材を埋め込み、ノミで滑らかに整えていく。


「紗希、この祭壇はただの木の台じゃない。人々の祈りを受け止める場所だ。その気持ちを込めて作業しろ。」


「はい……気持ちを……込めます……」


紗希はノミを握りしめ、細やかな調整を続けた。新しい木材が祭壇に溶け込むように仕上がると、彼女の心には小さな達成感が生まれた。


最後の工程は装飾の彫刻と塗装だった。紗希は祭壇の周囲に新たな模様を彫り込み、明るい朱色の塗料を丁寧に塗り重ねた。彫刻は花や葉の形をモチーフにしており、まるで祭壇そのものが呼吸しているようだった。


「紗希、その模様はいい感じだな。華やかだが、しっかりと神聖さが伝わる。」


「ありがとう……源蔵さん……」


朱色が乾くと、祭壇はまるで新しい命を吹き込まれたかのように輝いていた。


祭りの日、村人たちは修繕された祭壇を見て驚きと感動の声を上げた。


「すごい……こんなに綺麗な祭壇を見たのは初めてだ!」


「これで気持ちよく神様に祈りを捧げられるね!」


村人たちが祭壇の前で手を合わせる光景を見て、紗希は胸の奥が温かくなるのを感じた。


その夜、源蔵は紗希に鮮やかな朱色の宝石を手渡した。


「この宝石は『祈り』を象徴するものだ。お前が修繕した祭壇が、人々の祈りを受け止める場所として蘇った証だ。」


紗希はその宝石をじっと見つめ、静かに微笑んだ。


「私……もっと……人の祈りを……支えたい……」


「それが宮大工の仕事だ。お前の手で、村人たちの心に触れるものを作り続けろ。」


紗希はその言葉を胸に刻み、また新たな目標に向けて歩み始めた。こうして彼女は、祭壇の再生を通じて、宮大工としてさらに成長していくのだった。

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