第7話 村人の期待

祠の修繕を終えて数日が経った。紗希は、源蔵のもとで少しずつ宮大工としての基礎を学びながら、日々の暮らしに馴染み始めていた。しかし、その穏やかな日常に新たな試練が舞い込む。


「紗希、次の仕事だ。今回は村の集会所の屋根を直してほしい。」


源蔵がそう告げたとき、紗希は目を丸くした。屋根の修繕は祠の扉よりも大掛かりで、道具の扱いも慎重さが求められる。


「えっ……私、一人で……?」


「いや、今回は村の人々も手伝ってくれる。だが、指揮を取るのはお前だ。」


「指揮……私が……?」


紗希の手の中の道具が一瞬、重く感じられた。しかし、源蔵の眼差しは優しくも揺るぎないものだった。


「お前ならできる。自分を信じろ。そして、村人たちと力を合わせてみるんだ。」


作業当日、紗希はピロンと共に村の集会所に向かった。そこには、すでに数人の村人たちが集まっており、彼女を出迎えた。


「この前の祠の修繕、素晴らしかったよ!」


「今回は屋根の修理か。紗希さん、よろしく頼むよ。」


村人たちの明るい笑顔に、紗希は少しだけ緊張をほぐされた。しかし、自分が中心となるプレッシャーが消えるわけではなかった。


屋根の状態を確認すると、いくつかの瓦が崩れ、雨漏りの原因になっていることがわかった。紗希は道具を取り出し、作業の手順を村人たちに説明した。


「こ、この瓦を……新しいものに……変えて……」


言葉は途切れがちだったが、村人たちは彼女の説明を根気よく聞き、理解してくれた。


「よし、俺が瓦を運ぶよ。」


「私は下で支える柱を確認する。」


紗希の指示で作業が始まった。彼女自身も屋根に上り、慎重に古い瓦を取り外し、新しい瓦を取り付けていく。手の中の道具が少しずつ馴染んでくる感覚を覚えた。


しかし、途中で問題が発生した。一部の柱が劣化しており、瓦を支えきれない状態だった。


「どうしよう……」


紗希は一瞬立ち尽くした。以前の自分なら、この場でただ困惑するだけだっただろう。しかし、今の彼女は違った。


「柱を……交換……します……でも……」


作業手順を考え、村人たちに協力を仰ぐ。


「柱を……外す間、支えて……ください……」


村人たちは彼女の指示に従い、一致団結して柱を支えた。紗希は急いで新しい木材を加工し、柱を交換する作業を進める。


「大丈夫、紗希!落ち着いて!」ピロンの声が背中を押す。


作業は慎重ながらも着実に進み、夕方には屋根が元通りに修繕された。


作業を終えると、村人たちから拍手が起こった。


「素晴らしい!紗希さん、本当にありがとう!」


「君の力で村がまたひとつ元気になったよ。」


紗希は村人たちの感謝の言葉に、頬を赤らめながらも微笑みを返した。こんな風に人の役に立てたのは、彼女にとって初めての経験だった。


作業場に戻ると、源蔵が彼女を出迎えた。


「よくやったな。お前の仕事ぶり、村のやつらから聞いたぞ。」


源蔵は紗希に、薄紫色に輝く宝石を手渡した。


「この色の宝石は特別だ。人と協力し、信頼を得たときにもらえるものだ。」


紗希はその宝石を大切に握りしめた。この宝石は、彼女が一歩一歩前進している証だった。


「ありがとう……ございます……」


宝石の光が、紗希の胸の中で新たな希望の灯火となった。こうして、紗希は新たな試練を乗り越え、人々と共に生きる喜びを少しずつ知っていくのだった。

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