終話 モブからの現在
⸺⸺10年後。
聖女の加護は緩やかに国を発展させていった。それに伴い、シャルル殿下は国中を回り、聖女の在り方と加護についての認識を改めるよう演説を繰り返した。
その甲斐もあり、貧しかった村々は頑張って働く事で加護の恩恵を得られるのだと理解し、より一層農業に励み国の食糧事情もすこぶる豊かになった。
そして私とシャルル殿下の間には3人の子がいる。勇者と聖女のサラブレッドだからか、それとも転生者同士のサラブレッドだからかは分からないけど、どうやら3人共チートスキルを持っているようで……。
「お父様、もう一度お願いします!」
そう言って剣を持って立ち上がったのは9歳の第一王女アーデルハイト。彼女は剣術の才能に恵まれていた。
「……まだやるのか……。そろそろ1本取られそうで嫌なんだが……」
シャルル殿下はそうボソッと呟く。
「お父様、今何か仰いましたか!?」
「いや、何でもない……。ほら、かかって来なさい」
中庭に剣が激しくぶつかり合う音が響き渡る。城の使用人らは、その音を聞きながら仕事をするのが日課になっていた。
⸺⸺
「お母様、小鳥さんが怪我をしています! お母様の白魔法で治してあげて下さい!」
そう言って私に怪我をした小鳥を差し出したのは、8歳の第一王子リナルド。彼は男児でありながら聖女と似たような魔力を持っており、少し気弱なところもあるが優しい心の持ち主だ。
「いいえ、リナルド。あなたが自分で治してあげなさい。出来るでしょう?」
「ぼ、僕なんかの下手くそな白魔法で治癒されて小鳥さんは喜ぶでしょうか……」
「あなたの白魔法は下手くそなんかじゃないわ。私の白魔法よりもずっと温かくて心地が良いわよ。さぁ、やってご覧なさい」
「うぅ……はい……ヒール!」
リナルドの魔力が小鳥を優しく包み込み、怪我をしていた翼もすっかりと元通りになった。
「ちゅん、ちゅん!」
小鳥はすぐにパタパタと飛び始め、リナルドへお礼を言うように周りをパタパタと飛び回り、彼の肩へと着地した。
「わぁぁ、元気になって良かったね、ファフニール
リナルドは満面の笑みを浮かべて小鳥と共に元気に走り去って行った。
『勝手にあの小鳥に我の子のような名を付けられたのだが……』
チビファフニールが苦い顔で私のもとへと飛んでくる。
「まぁ、良いじゃない。あなたの事を慕っている証拠よ」
『ぐぬぬ……』
⸺⸺
「良いわ! 凄いわオリヴィエ! この調子で上級魔法も取得しちゃいましょう!」
「はい! アンジェリカ様!」
魔法杖を持って元気に返事をしたのは7歳の第二王子オリヴィエ。天性の魔道の心得があり、それを見抜いたアンジェリカが付きっきりで魔法の稽古を積んでいる。
この3人の我が子がこれ程までに必死になっているのは、将来3人で“勇者親衛騎士団”に所属し、次代の勇者と聖女の力になるためだそうだ。
『もし勇者と聖女の代の入れ替わりの時期が来ても自分たちがきっと探し出して2人を引き合せるから、国民のみんなは安心してください』
先月3人が自分らで考えて国民に対しそう演説をし、いつまでも拍手が止まなかったのを今でも覚えている。
モブであった私の人生は勇者シャルルによって一変し、今では王族となり3人の子宝にも恵まれた。
ちなみにエッケ村の廃墟は大きく緑豊かな公園へと整備され、再び湧き出た長寿の水は誰でも無料で好きなだけ飲めるようになっている。
⸺⸺おしまい⸺⸺
モブに転生した私は聖女様の身代わりで邪竜の生贄になりにいったけど、待っていたのは王子様の溺愛でした るあか @picho
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