第12話 優しい気遣い

 ガラスに映る自分を見てシュンとうつむくと、それに気付いたシャルル殿下が何かを思い付いたようにこう言ってきた。

「そうだ、ジェニー。町は初めてだろう。お前が楽しめそうな場所がいくつかあるのだ。さぁ、こちらへ」

「楽しめそうな場所……?」


 彼は私の腕を引いてどんどん町の奥へと進んでいく。一体どこに連れて行かれるのだろう。そう思っていると、彼は“美容室”の前で足を止めた。


「ここだ。ここは髪を切ったり、整えてもらったりする場所なんだ。先程洞窟で容姿を気にしていたからな。きっと髪を整えてもらったら気分も上がると思うのだが……」

「殿下……ありがとうございます!」


「あぁ、そうだ。騒ぎになるのを防ぐため一応王太子だと言う事は伏せておきたい。だから、俺の事は“シャル”と呼んでくれ。それから敬語もなしだ。対等な立場の旅人と言う事にしてくれないか」

 だから殿下はそんなラフな格好をしていたんだ。

「分かりまし……わ、分かったよ、シャル!」


 早速美容室で髪を綺麗にしてもらった私が次に連れて行かれたのは服屋さんだった。

 村の小さな服屋には決して売っていないような可愛い服がたくさん並んでいて目移りをしていると、迷っているものを全て買ってくれてしまった。


 全身新しい服に身を包み、村にいた頃の私とは全くの別人となり、幸せで気分も高揚していた。

「ありがとう、シャル。私、自分に自信がなかったから……。外見だけでも変わったら、中身も自信が持てそうな……そんな気がする」

 満面の笑みでお礼を言う。こんなに笑えたのはジェニーに生まれてから初めてかもしれない。


 そんな私を見たシャルル殿下は頬を赤らめて目を真ん丸にしていた。

「……俺の方こそ、そんな素敵な笑顔が見られて、あちこち駆け回ったかいがあった。ありがとう、ジェニー……」

 彼はそう言って、すぐに視線をそらしてしまった。


「あちこち駆け回る……あ、そうだ。シャルが火山洞窟に行って帰って来なかった日から一体何があったのか、教えてほしい……です」

「あぁ、そうだな。もう昼もとっくに過ぎているのか……遅い昼食がてら、酒場にでも入ろう」

「うん」


 シャルル殿下が案内してくれたのは町で一番大きい『猫々亭』と言う酒場だった。

 お腹もペコペコだった私は話を聞くよりもまず、お腹を満たす事に必死になっていた。村では味わった事のない美味しい料理ばかり。一生懸命に食べる私を見て殿下が優しく微笑んでいたのを、食べるのに夢中な私は知る由もなかった。


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