第29話 化けの皮

「聖女はセイラでは……!?」

「死んだはずのシャルル王太子が生きているし、一体何が何なんだ……」

 村人はパニックになっている。どうやら村がこんな有り様になってもセイラが聖女であると信じていたようだ。


「いいか良く聞け。勇者であるシャルル・グランデは、本物の聖女であるジェニーと婚姻をした」


「ジェニー!?」

「ジェニーが本物の聖女!?」

「う、嘘でしょ……? だってアイツは邪竜の生贄に……」

 セイラは顔が真っ青になり、村人らは雷に打たれたように衝撃を受けていた。


「本物の聖女は、勇者に口付けをされることで本来の容姿を取り戻す。彼女は、聖女としての本来の姿を取り戻したジェニーだ」

 シャルル殿下はそう言って私の肩に手を置いた。


「何!? あんな綺麗な娘がジェニー!?」

「ジェニー、ジェニーなのね!? あぁ、生きていて良かったわ。母さん1日たりとも愛するあなたの事を忘れた事なんか……」


「嘘だよね。厄介払いが出来て喜んでたもんね」

「そっ、それは……その……!」

 私の一応母親であった人は、顔を真っ青にして冷や汗をダラダラと流していた。


「そのセイラと言う名の女は、自身が聖女ではないと薄々気付いていながらも、聖女であると偽り、“勇者の痣”を付けて偽装工作をした。その女の現在の本当の姿を晒してやる。アンジェリカ、頼む」

「御意」


 アンジェリカが右手を上げて手のひらをセイラへと向けると、セイラに彫られていた勇者の痣は消え、若い娘の姿がみるみるうちによぼよぼの老婆の姿へと変化していった。


「セイラ、その姿は一体……!?」

「な、何よこれ!? なんでこんなしょぼくれたおばあちゃんに……!?」

「おい、偽装工作とはなんだ、セイラ、説明しろ!」

 辺りは騒然とする。驚きパニックになる者もいれば、手のひらを返したようにセイラを責め立てる者もいる。そもそもセイラを聖女だと決め付けていたのは村の人なのに。


「黙れ!」

「ひっ!?」

 シャルル殿下の一喝で、辺りは一瞬で静まり返る。そのしんとしている村人らへ、彼は更に追い打ちをかける。

「よって、その女には“偽聖女罪”が、村人ら全員には“偽聖女補助罪”と“国家反逆罪”が適用される。ちなみに呪いで邪竜の姿になっていたこのファフニールが俺を邪竜へ追いやって死なせようとしていたと証言してくれた。この期に及んで言い訳などするなよ」

『まぁ、護符を剥がしてくれた事だけは感謝しておるぞ、愚かな村人共よ』


 シャルル殿下が罪状を記した書状を高らかに提示をすると、村人らはそれを見て皆その場に崩れ落ちた。

「極刑って……首を斬られるってことよね……」

「死刑ってそんな……」

「どうか、死刑だけはどうか……!」


 殿下は時分にすがりつく村人を見下し鼻で笑うと、生気のこもっていない瞳でこう言い放った。

「死刑だと……? 笑えるな。てめぇらみたいなクズを殺す執行人の身にもなってみろ。可哀想だろ。だからてめぇらは……勝手に死ね」


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