第28話 不気味な宗教

⸺⸺エッケ村⸺⸺


 私が知っているエッケ村はもう少しマシな空気が流れていたような気がするけど、今足を踏み入れたその村はまるで廃村になったかのような寂しい空気が流れていた。


「あれ……何でこんな事に……」

「お前が居なくなったからだ。まさか1ヶ月余りでこうも寂れてしまうとは、俺も予想外だったけどな」

 シャルル殿下が隣に並んでそう答えてくれる。そんな私たちへ奥まで偵察に行っていた騎士の一人が報告に戻ってくる。


「シャルル殿下! 村の奥の家に村人が集まっているようです!」

「ふむ、村長の家だな。お前らは全員でその家を包囲していてくれ。俺らで中に突入する」

「はっ、了解です!」

 騎士の人は素早く皆へ伝達して、村長の家を取り囲んでいた。


⸺⸺村長の家⸺⸺


 シャルル殿下が入り口の戸を蹴飛ばして中へと入っていくので、私とアンジェリカもそれに続く。

 村の集会を行うための広い部屋に、ガリガリに痩せこけた村中の人が集まっていた。いや、いくらなんでも1ヶ月でこうもなる?


「セイラ様!」

「聖女セイラ様……! どうかお助けを」

「ったく、祈りが足りないのよ。もっと誠意を込めなさいよ」


 皆が頭を垂れる中心には偉そうに足を組んで派手な格好をしているセイラがいる。なんだか不気味な宗教みたいだ。

 彼女も皆もシャルル殿下の顔を見るなり目を見開いて驚きをあらわにした。


「あなた様は……! い、生きておられたのですね! 良かった、邪竜に殺されてしまったものだと……」

 村長がすがるように殿下へと迫る。彼はその伸ばされた手をパンッと振り払った。


「汚い手で俺に触れるな」

 シャルル殿下は低く冷たい手でそう言う。そんな冷酷な彼は久々に見たような気がする。今ではそんなギャップに萌えてしまう自分がいる。


「シャルル殿下ぁ。生きていたのですね、良かったぁ。結婚するために私を迎えに来てくれたのですね。こんな寂れた村嫌になってたところなんですぅ。早くお城で優雅に暮らしたいですぅ」

 セイラは甘ったれた声でクネクネと擦り寄ってくる。そのギャグかとも思えるオーバーな態度に、アンジェリカが抑え気味に小さく吹き出していた。


「言っている意味が分からんな。お前との婚約などとっくに破棄している。むしろお前の爺さんが俺が死んだから婚約は破棄だという書状を国に送ってきただろう。国はそれを受理した、それだけだ」

「えっ、でも勇者と聖女は結婚をする定めでは……」


「そうだな。今日は俺が直々にその勇者と聖女が結婚をしたという知らせに来てやった。感謝するがいい」


「えっ……!?」

 セイラも含めた村人全員がど肝を抜かれた顔でシャルル殿下を見上げた。


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