第27話 初めての加護の儀の前に

 それから1ヶ月、私はジェニー姫としてシャルル殿下とアンジェリカと共に夢のような時間を過ごした。まさか自分が国の姫になるなんて、エッケ村に居た時の私には想像もつかなかった。

 そして私には戦う力はないけど、聖女の魔力は治癒の魔法と相性が良いらしく、アンジェリカから治癒の魔法である“白魔法”を伝授してもらった。今私は“見習い白魔道士”と言ったところである。


⸺⸺1ヶ月後。


 私とシャルル殿下の婚姻の儀……つまり結婚式が国を挙げて盛大に行われた。今代は国の王太子が勇者というめでたい代であり、国中の領主らもお祝いに駆け付けてくれた。


 本来勇者と聖女の婚姻の儀が終わると、今度は最初の加護の儀を行う段取りになっているのだが、私たちにはその前にやる事があった。


⸺⸺


 婚姻の儀から数日後、城下町の外には“勇者親衛騎士団”と言う騎士の精鋭たちが集まっており、その指揮を取るのはシャルル殿下。そして、私はアンジェリカと共にファフニールに乗ってその騎士団の後ろへと付く。


「ではこれよりエッケ村への進軍を開始する!」

 シャルル殿下の一声で馬が一斉に走り出す。


 国王様が下したエッケ村の罪状、まずは“偽聖女補助罪”。聖女でない者を聖女であると国に偽る事は重罪である。

 そして聖女である私を魔物への供物としようとした事、更には勇者の使命を妨害した事。これらは“国家反逆罪”となり、極刑に処される。


「極刑って……村のみんなは死刑ってこと?」

 ファフニールの上で、私の背中にいるアンジェリカへと問う。

「そうね。私も現代の法を色々と勉強したのだけど、死刑か、執行人の裁量で死ぬ程辛い刑のどちらかに処されるわ。両親が死ぬのは辛い?」


 私は大きく首を横に振る。

「私の両親は、私が邪竜の生贄に捧げられる時、厄介払いが出来たって喜んでた。だから、極刑って言われても悲しいなんて気持ちは湧いてこないよ」

「そう……なら、私も何の躊躇いもなく出来るわ。教えてくれてありがと」

「えっ、アンが執行人なの?」

「ええ。言ったでしょ? セイラの事をなんとかする時は私に任せてって。ただ、どうするかの裁量は国王様からシャルル殿下に委ねられてる。私は殿下の下した刑をそのまま実行するって感じね」


 アンジェリカは前にローランの領土の住民を皆殺しにした経験がある。今度は規模の小さい村とは言え、辛くはないのかな。

「アン、私のせいでまた人を殺す事になるのかな……。アンだって嫌だよね、ごめんね……」

 泣きそうな声でそう言うと、アンジェリカは私の頭をポンポンと撫でた。

「ジェニー。あなたの旦那は、あなたが悲しむ様な事なんてしないわよ。一緒に彼を信じましょう」


 つまり、シャルル殿下はアンジェリカに村の人を皆殺しにさせるような事は、私が悲しむからしない……。彼女はそう言う意味で今の言葉をかけてくれたんだと私は思った。

「うん……そうだよね。シャルを信じる」


 私が頷いて前を向くと、アンジェリカはボソッとこう呟いた。

「まぁ結果、村の人らは死ぬより辛い結末が待っているかもだけど……」

「ん、何、アン? 最後なんて言った?」

「んーん。何でもないわ。さ、ここよね。ジェニーの故郷」


「あれ……?」

 確かに村の入り口には『エッケ村』と書かれている。でも……私の住んでいた頃の村とは雰囲気が全然違った。


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