第26話 姫と大魔女

⸺⸺グランデ城⸺⸺


 アンジェリカを迎えに行って、これから私の家となるグランデ城へとやって来た。ファフニールがいればどこでもひとっ飛びだ。


「お帰りなさいませ、シャルル王太子殿下! ジェニー姫様!」

 お城に足を踏み入れた途端、たくさんの使用人らに出迎えられる。こんな待遇を受けたのは初めてだ。それに姫様だなんて……。


 シャルル殿下は事前に私とアンジェリカの事を城に報告してくれていたため、2人共大歓迎され国王様との謁見の前に綺麗なドレスを着せてくれた。

 アンジェリカも侍女という立場であるが私の護衛でもあるため、メイド服とは差別化された黒いローブを着せてもらっていた。


 シャルル殿下もすっかり王子様の格好に戻り、おめかしした3人で国王様のもとへと向かった。


⸺⸺玉座の間⸺⸺


「シャルルよ、よくぞ聖女を連れて戻って来てくれた」

 立派な髭を生やしたいかにも国王様なおじさんが玉座で待ち構えていた。

「はっ」

 シャルル殿下が会釈をするのに合わせて、私とアンジェリカも頭を下げる。


「楽にしてくれて良い。ジェニーにアンジェリカだったな。この城に来てくれて感謝しておる。これからはこの城が家となる。後でゆっくりと見て回ってほしい」


「ありがとうございます」

 アンジェリカと揃って再び頭を下げる。

「時にアンジェリカ。貴殿は何でも太古の魔女の末裔であると聞いておるが、本当なのか?」

 末裔ではなく太古の魔女本人だけど……。


「はい。シャルル殿下の仰る通りにございます。魔女特有の長い寿命を持て余しひとり寂しく暮らしていたところをジェニーに声をかけていただき、お守りしようと誓った次第でございます」


「うむ。ジェニーは非力だと聞いておる故、なんと心強い事か。貴殿のそのローブはこの国の魔道将軍と同等のもの。貴殿にはジェニー姫の侍女であると同時に、貴殿専用の“大魔女”の称号を授ける。将軍と同等の地位だと皆には伝えてある」

「はっ、ありがたき幸せ」


 今はアンジェリカの同胞は皆滅んでしまったようで、魔女は寿命が長いという勝手な設定も簡単に通ったようだ。それに大魔女……かっこいい……!


「それでシャルルとジェニーの婚姻の儀であるが、1ヶ月後にこの城で行う予定で進めておる。シャルルはこの長い遠征の疲れをゆっくりと癒やし、ジェニーとアンジェリカはそれまでにこの城の暮らしに慣れてもらえると助かる」


 シャルル殿下は相槌を打つと、早速ある話題を国王様へと振る。

「父上、聖女法の改正案ですが、お目通しいただけたでしょうか」

 聖女法……“儀聖女罪”などを定めている法律だ。シャルル殿下はアンジェリカから元聖女のひどい待遇を聞いてから、夜な夜なそれらを守る法律案を考えてくれていたらしい。


「うむ。今までは聖女を守る法ばかりであったが、元聖女が辛い待遇を受けておったとはワシも知らなかった。ワシも今一度、国のために尽力してくれている聖女という立場を考え直し、シャルルの案をもっと手厚くしようと考えておる。婚姻の儀が終わった後、シャルルも議会に出席し意見するが良い」


「ありがとうございます、父上……!」

 私たちは顔を見合わせ喜ぶと、国王様へ何度もお礼を言って玉座の間を後にした。


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