第30話 廃村

 勝手に死ねって何だ!? でも、やっぱりシャルル殿下は執行人の手を下さないっていう選択をしたんだ。

 一体どういうことなのか、彼の次の言葉を待った。


「お前らへの極刑は、俺の裁量で“島流し”とする」

「死刑じゃないのか?」

「死刑は見逃してくれたんだ」


 ホッとしている村人を嘲笑うように、アンジェリカは「なるほどね」と笑っていた。

 シャルル殿下は更にこう告げる。

「何を喜んでいるのかは知らんが、無人島への島流しだ。無人島はその名の通り人の手が加わっていない島。それは謂わば、共喰いを繰り返してより凶暴になった魔物の巣窟と言える。もちろんこの村のような結界もない」


「え……」

 村人らの表情は一気に凍り付いた。


「更に今のままではそのセイラババアを真っ先に囮にするだろうからな。お前ら全員条件を揃える。アンジェリカ、頼む」

「見た目だけでいいのね?」

「あぁ」

「御意」


 アンジェリカは村人ら全員へ見た目を変える魔法をかけた。皆はたちまち老人へと姿を変える。

「な、なんで私たちまで老人に……」

「腰が痛くて思うように動けん……」


「……その状態で無人島への島流しだ。ジェニーが受けた心の痛み、死の恐怖、その身を持ってとくと味わいながら死んでこい。全員連れて行け」

「はっ」

 後ろに控えていた騎士はすぐさま家を取り囲んでいた騎士らを応援に呼ぶと、よぼよぼの老人らを拘束して次々に馬車へと連れて行った。


⸺⸺


 エッケ村は、事実上の廃村となった。少し前までこんこんと湧き出ていた“長寿の水”はカラカラに枯れて一滴も湧いていない。

 私が居なくなったことでこんなにも変わってしまうとは。聖女としての加護の重要さを、改めて思い知った。


 村人らは皆城下町へ着くとそのまま船に乗せられてどこかも分からない無人島を目指していった。


 きっと聖女は誰だと決め付けずに、聖女を村で独り占めしようとせずに、そして聖女ではないと分かった時点で自白していれば、きっと村は廃村にならずにこの後の聖女の加護も受ける事が出来たのに。

 人の欲は怖い。聖女の加護があり過ぎるのも問題なのでは。この村の有り様を見て、私はそう感じていた。


⸺⸺


 それから数日後、私とシャルル殿下は最初の加護の儀を行いに、ファフニールに乗って聖域へと向かった。


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