第17話 サンクの町の痕跡

⸺⸺サンクの町⸺⸺


 街道の途中にある休憩所で休憩を挟みながら、2人で手を繋いでのんびりとサンクの町へと辿り着く。

 サンクの町はトレイルの町同様に栄えてはいたが、石造りの建物が多く荘厳な雰囲気であった。


 もうとっくにお昼を回っていたため、酒場で昼食を取り、2人でぶらぶらと観光をする。

 まるで初めて会ってからの4年の空白を埋めるように、濃い時間を堪能した。


 翌日。シャルル殿下がこの町の町長に身分を明かし、彼の自宅で4年前の出来事を聞く事となった。


「ええ、4年前に一人の少女がこの町で大騒ぎをしていたこと、今でもハッキリと覚えております」

「その時の様子を詳しく聞かせてほしい」


 町長は大きく頷き、当時の奇妙な体験を語り始めた。

「今から約4年前、セイラという少女が町長である私のもとを訪ねて来ました。なんでも自分は聖女だから、それなりのもてなしをしろと、いきなりそう言って来たのです」

「ふむ、想像できるな……」

「た、確かに……」

 私はあはは、と苦笑いをする。


「初めは門前払いをしたのですが、聖域への通行許可証を見せつけてきて、これが証拠だと……。その許可証は確かに国の正式な許可証だったと記憶しております」

「町長の記憶は正しい。あれは紛れもなく本物の許可証だ。混乱させてしまってすまないな」


「あぁ、やはりそうだったのですね……。一応町の会議に相談をしました。とにかく許可証が国の正式なものである以上、彼女を無視する事はできないと判断し、町の宿屋でもてなし、詳しい事情を聞く事となりました」

「慎重な対応感謝する。それで、彼女はなんと?」


「彼女は勇者であるシャルル殿下と婚約をしたため、聖女のみそぎを済ませて痣を発現させなければならないと言っておりました」

「ふむ、あくまでも本当に自分が聖女であると信じ込んでいたのだな……」

「村の大人にそう言われ続けて育って来たからね……」


「ですが、もし聖女であるという話が本当なのであれば、国の騎士団の護衛がついても良いのではと、わたくし共は考えたのです。あくまでも14歳の少女が一人で許可証を持って……これは普通の事態ではないと、予測をしました」


「そんな町で騒ぎ始めるのであれば、町長に一報入れておくべきだったな……。それで、その後は?」

 シャルル殿下は苦い顔で反省をしつつ、続きを催促する。


「毎日議会で議論を続け、その間セイラ殿には町に滞在をしてもらっておりましたが、彼女の態度は日に日に悪どくなっていきました。そんな彼女の横柄な言動から、わたくし共の最終的な判断は“偽聖女”でした。許可証は本物の聖女から奪い取ったのではないかと、そういう判断に至りました」


「ふむ、そう判断されてもおかしくはないな」

 殿下はうんうんと頷く。


「彼女の希望はもてなした上で、聖域に辿り着くための護衛をつけろとの事でしたが、我々はそれを認めず、もし本当なのであれば国の正式な護衛をつけて来てほしいと伝え、町から追放しました」


「セイラ……その後どうしたんだろう……」

 私がそうポツンと呟くと、町長は更に話を続けてくれた。

「町の門番からの報告では、この町の北西にある“魔女の屋敷”に向かったのでは、との事です。その程度の距離であれば民間の傭兵も安く雇えますから、ありえる話ではあります」


「「魔女の屋敷……?」」

 私と殿下は顔を見合わせてお互い首を傾げた。

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