第16話 前世の記憶
「なんだ、ジェニーもなのか……。打ち明けてみるものだな……」
シャルル殿下はホッとしたように笑っていた。繋いでいる手の握る力も少し強くなったような気がして、絆が生まれた、そんな瞬間だった。
「シャルの前世は、どんな人だったの?」
「俺の前世は……戦争の絶えない国の軍人だった……」
「うっ……辛い記憶だね……」
彼は頷いて、語り始めた。
「俺は、ジェニーの言ういわゆるモブ兵士で、常に最前線である隣国との国境付近で戦わされていた」
「大変だ……」
「それで、28歳の頃、敵国の村人を庇って殺されたんだ」
「え、敵国の!?」
「あぁ。相手は戦争に勝つためなら自国民がどうなっても構わないという方針だった。戦地となった村に逃げ遅れた村人がいてな。それでも相手は構わず広範囲の魔法を放ってきた。だから俺は盾になって、それで死んだ。で、気付いたら国の王太子と言う訳だ」
「うぅ……大変な前世だったね……」
「まぁな。だが、前世の戦闘の経験があってか、俺は幼少期から剣が扱えた。10歳の頃には、国の騎士団長から一本取った事だってあるんだぞ?」
殿下はそう言って自慢気に微笑んだ。それっていわゆるチートスキルと言うやつでは……!?
「すごい……! だからシャルからはなんていうか、只者じゃないオーラを感じるんだね!」
「なっ……そんなオーラを感じていたんだな……。それはもしかしたら無意識に勇者の気配を感じ取っているのかもしれないが……」
殿下は頬を赤らめていた。
「敵国の人を庇ったから、徳を積んで勇者に選ばれたのかな?」
「どうだろうか……。もし前世の行いが関係しているのなら、ジェニーは何か思い当たる節があるか?」
「うーん……」
私は改めて薬屋の娘の人生を振り返ってみる。平凡な人生だった……そう思っていたけど、改めて振り返ると一つだけ徳を積んでいそうな事を思い出す。
「あっ、そう言えば……。私の前世の世界は、魔物が襲ってくる世界じゃなかったの。この世界の魔物みたいな禍々しいモヤもなかったし……。動物と大差ないような、そんな魔物ばかりだった」
「ふむ。共存していたのか?」
「ううん。共存はできていなかった。魔物は倒すもの。あの世界の人間にもそう言う認識が当たり前のようにあって、町のすぐ外では毎日弱い魔物が虐められていた」
「動物が虐められていると、そう言う感覚でいいか?」
「うん。私はそんな魔物を見るのが辛くて、可哀想で……。自分のお店の薬をこっそり持ち出しては治療していたの。それも途中で親にバレちゃって、出来なくなっちゃうんだけどね」
「なるほど……」
「だから将来は家の手伝いじゃなくて、ちゃんと自分のお店を持って魔物たちを助けてあげるんだって、そう思ってた。でも、ある時森の中で虐められている魔物を見つけて止めに入ったんだけど、それが山賊の集団で……そのまま殺されちゃった」
「なっ!? その山賊……皆殺しにしてやりたいな……」
シャルル殿下はそう言って悔しそうに剣の柄に手をかけた。
「あはは。もう前世の事だから……。今までは今世が一番不幸だって思ってたけど、シャルに出会ってようやく報われたような、そんな気がする……」
「もっと早く連れ出してやれなくて、すまなかったな……」
殿下は再び悔しそうな表情を浮かべる。
「そんな……! 見つけてくれただけで感謝してるんだよ? そんなふうに謝らないで?」
「ジェニー……ありがとう。これからは何があってもそばで俺が守ると誓う。だから俺に、挽回のチャンスをくれ」
「挽回って……でも、うん。ありがとう、シャル……」
お互いに頬を赤らめて、前を向く。そんな私たちを見て、ファフニールは面倒くさそうに『ふわぁ~っ』と欠伸をしていた。
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