第7話 待っていたもの

⸺⸺火山洞窟⸺⸺


 2ヶ月前もそうだったが、火口の近くだというのにそこまでの暑さは感じなかった。きっとマグマの不思議な魔力のせいだろう。


 ゆっくりと、洞窟の中を進んでいく。一度来たから分かる。そろそろ、最深部へ到達する。まだ死にたくない、そんな想いからか、心臓の鼓動がドクドクとうるさかった。


⸺⸺火山洞窟 最深部⸺⸺



『グルァァァァァッ!』

「ひっ!」

「っ!」

 あの時の黒いモヤをまとった巨大な竜の雄叫びで出迎えられ、私を挟んでいた前後のおじさんは二人とも腰を抜かした。


『その者が聖女か?』

「……は、はい……」

 おじさんの内の一人が恐る恐るそう答えると、邪竜は私の身体に大きな顔を近付け、フンフンと匂いを嗅ぐ。鼻息だけで飛ばされてしまいそうだ。


『良かろう。約束だ、村を滅ぼすのはやめよう。分かったら部外者はとっとと立ち去るがいい』

「「はっ、はいっ!」」


 おじさん二人は腰を抜かしながらも死にものぐるいで這うように最深部から出ていった。

 邪竜はのっしのっしと歩き、おじさんが遠ざかっていくのを確認する。しかし腰を抜かしているおじさんたちはなかなかにペースがノロマのようで、痺れを切らした邪竜は洞窟へフンッと鼻息を飛ばした。

 すると、洞窟の奥の方からおじさんたちの「ぎゃぁぁぁ~!」という叫び声が聞こえてきて、その叫びはどんどんと小さくなっていった。鼻息で、飛ばされたんだ。


『ふぅ。これだけ離れていればもう良かろう。我があるじよ。厄介払いは済んだぞ』

 邪竜がそう言ってこのフロアにある大きな岩へ話しかけると、その岩の陰からシャルル殿下が現れた。


「シャルル殿下!?」

 あれ、本物? 良かった、生きていたんだ……。でも、村に来た時の格好とは違い、町人のような、ラフな格好になっている。

「ジェニー。やはりお前が連れて来られたのだな。こんな物で拘束をされて可哀想に。今解いてやる」

 彼は腰に装備していた小刀で器用に私の腕のロープを切ってくれた。


「あの、ありがとうございます。あの、あの……お元気そうで、良かったです……!」

 自然と涙が溢れてくる。彼はそっと私の頬に触れると、親指で優しく涙を拭ってくれた。

「自分の心配より、俺の心配か?」

「だって、戻ってこなかったので、死んじゃったかと……あの、これは一体……?」


「もちろん説明してやる。だがその前に……お前も18になったのだろう? 身体のどこかにあざは発現していないか?」

「痣!? 私がですか!?」

 目を真ん丸にしている私に対し、シャルル殿下も邪竜も揃ってこくんと頷いた。

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