第6話 そして現在へ

 翌日になっても殿下が村に戻ってくる事はなかったため、村の大人たちはセイラを奪われなくなった事に密かに大喜びをしていた。


 一方で何も知らないセイラはとてつもない玉の輿を目の前で逃してしまい、泣き崩れていた。

「やっと、やっと将来の王妃になれると思ったのに……! こんなのひどいわ。何で邪竜くらいパパッと倒して来ないのよ。結局国の王子なんてちやほやされて自分が強いと勘違いしてただけなのね」


 そうだろうか。私には、シャルル殿下はものすごい力を秘めていたように、そう思えたんだけど。

 でも、シャルル殿下が戻って来ないのは事実で、私も初恋の相手を亡くしてしまった事に落ち込んでいた。


 すると、それからしばらく経って、火山から黒く巨大な竜が村の上空へと飛んでくる。

 皆が恐怖に腰を抜かす中、邪竜はテレパシーでこう告げてきた。


『約束の日まで後20日だ。20日後、必ず聖女を火山の洞窟へと連れて来い。生贄として、我が糧としてやろう。もし連れて来なければ、宣言通り村を滅ぼす』

 邪竜は村中の人々の脳内にそう告げると、バサバサと火山の方へ飛んでいってしまった。


「な、何で……本当に……」

 シャルル殿下にそう伝えたおじさんも村長も、恐怖で怯えきっていた。

 多分シャルル殿下に伝えた事は嘘だったんだ。なのに、邪竜はあたかもその約束をしたような言い方をしてきた。

 嘘を吐いた事によるばちが当たったのだろうか。この時の私は、そんなふうに考えていた。


「そんな……婚約者を失って、更に邪竜の生贄になるなんて、そんなのあんまりだわ。あたしはずっとこの村に恩恵を与え続けていたというのに……」


 セイラはそう泣き崩れるが、急に何かを思い付いた様にパッと顔を上げた。

「そうだわ。おじいちゃん、ジェニーを代わりに生贄に連れていきましょう。同じ年だし、バレやしないわ」

「なっ、それは……! いや、そうだな。この村のためにはそうすべきかもしれん」


 村長を始め、私の両親ですら同意をして、満場一致で私を聖女の身代わりとして生贄に捧げる事が決まった。


 去り際に、セイラは私の耳元でコソッと耳打ちをする。

「小さい頃、急に人が変わったように大人びて、ずっと不気味で気に食わなかったのよ。ざまぁみなさい」

 ふんっと鼻で笑って、彼女は村長の家へと戻っていった。


 そんな事よりも私がショックだったのは、私の両親がボソッと「これで厄介払いが出来た」と話していたのが聞こえてしまった事だった。


⸺⸺現在⸺⸺


 火山洞窟の入り口へと辿り着き、私は思い出にふけるのをやめた。

 そして、後ろのおじさんに軽く押されて、火山洞窟へと足を踏み入れた。

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