第5話 勇者なのだから

⸺⸺1ヶ月前⸺⸺


 セイラとシャルル殿下の婚約書に書いてある迎えの日。あの婚約を結んでから丁度4年が経った日。


 シャルル殿下はピッタリとその日にまた村を訪れた。あの日から4年が経って、彼は22歳で私たちは18歳。

 彼は18歳の時点で既に大人っぽかったのに、また更に垢抜けて凛々しさが増していた。村を堂々と歩く彼にきゅんとときめく私の心。

 だめだ、自分は一体何をやっているんだ。シャルル殿下はセイラの婚約者。幼馴染の婚約者にときめくなんて最低だ。

 そう思い、彼がこちらを向くと同時に私はうつむき視線をそらしてしまった。


 シャルル殿下が村長の家に近付くと、中から村長が慌てて顔を出す。

「シャルル殿下、ようこそお越し下さいました」

「挨拶などよい。お前の孫娘はどうなった?」

「はい、無事聖女のみそぎは済ませたのですが……少々厄介な事態になってしまいまして……」


「聖女の禊を済ませた……? あざが発現したとでも言うのか?」

 シャルル殿下は目を見開き驚きをあらわにする。

「ええ、はい。殿下と同じような青い痣でございます」


「俺と同じ……。孫娘を連れて来い。痣の確認をする」

「ええ、はい。ただいま……」

 村長がそう言って家の中に戻っていくと、シャルル殿下は急に私の方を向いたため、私はまたうつむいて視線をそらした。


 5分ほどでセイラが村長の家から現れる。

「シャルル殿下~! お久しぶりですっ! 見て下さい、聖女の痣です」

 彼女はそう言って、わざと多めに胸元をはだけさせて胸を寄せて殿下に痣を見せつける。4年前とは違い、セイラの胸は立派に育っていた。

 しかしシャルル殿下はそんなもの気にも止めてない様子で、胸元の痣をジッと見つめる。


「もぅ、殿下ったら、見すぎですよぅ。痣じゃないとこ、見てませんかぁ?」

 セイラはそう言って更に胸元をはだけさせた。一体彼女は何がしたいのだろうか。

 そんな彼女を、殿下は鋭い視線でキッと睨み付ける。

「本当に聖域に行って禊を済ませた上で、痣を発現させて来たのだな?」


 その鋭い視線に少し後退るセイラ。

「も、もちろんですよ……。この青い痣が、その証拠です……」

 心なしか、彼女は冷や汗をかいている様に見えた。気のせいだろうか。


「まぁ、その話は後でいい。で、厄介な事態とは何だ?」 

 シャルル殿下はそう言って今度は村長へと視線を向ける。彼のこのピリピリとしたような威圧は一体どこから来るのだろう。彼の強さか、それとも怒りからか。どちらにせよ、ある程度距離のある私ですら、全身の毛が逆立ってゾワゾワしてしまった。


「はい、実は1ヶ月ほど前、火山の洞窟の邪竜の封印が何者かによって解かれてしまい、それを偶然発見した村の者がこう言われたのです」

 村長がそう言うと、彼の少し後ろに控えていた村のおじさんが前へ出て口を開いた。

「“お前の村に聖女がいるな。今日から2ヶ月以内に我の生贄に捧げよ。出なければ村を滅ぼす”……と、言っていました」


「……で?」

 と、シャルル殿下。村長は慌ててこう付け加える。

「あなた様は勇者の生まれ変わりなのでしょう!? どうか邪竜を倒し、この村をお救い下さいませ……! そうでなければわたくしは村長として村のため、セイラを渡す訳にはいきません!」


「……」

 シャルル殿下はジッと村長を見つめ、何かを考えていた。

 そして、彼は「良いだろう。確かにお前の言う通り魔物の討伐は勇者としての使命だ」と承諾をし、早速邪竜討伐へと出掛けていった。


 しかし、シャルル殿下はそれっきり帰っては来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る