第19話 勇者の先祖の幻影

「くっ、何をする気だ……!?」

「私は……私は誰にも殺されない……! 助けて、ローラン!」


 少女がそう叫ぶと私たちの前に魔法陣が現れ、そこから真っ黒な影の人の形をしたものが湧き出てきた。

『ローラン……! やはりお主は……』

「ローラン……? 聞いたことがある……何世代か前の勇者の名だな」

 と、シャルル殿下。

『我が同行した400年前の勇者だ。この幻影は彼の形をそのままかたどっている。いや、気迫まで当時の彼そのもの。シャル、用心せよ』


「なるほど。俺の力を試すのは良い機会だ。ジェニー、下がっていろ」

「うん……」

 私はファフニールを連れて広間の隅へと避難をする。


「ねぇ、ファフニール。あの子はもしかして……勇者ローランの時の聖女……?」

 彼はうんと頷く。

『名をアンジェリカという。だが……アンジェリカは既に死んでおるし、むしろ当時の声色よりも幼いのが気になる。今は彼女は気が動転しておるゆえ、我の姿も目に入ってはいないようだ。シャルが彼女の気を鎮めてくれるのを待つとしよう』

「うん……」


 私とファフニールが見守る中、シャルル殿下と勇者ローランの幻影との一騎討ちが始まった。

 お互いに素早く相手に詰め寄り、広間にキンッという激しい金属音が鳴り響く。その2人の勇ましい姿に、こんな時だと言うのにキュンキュンしてしまう。


 そして2人は魔法も扱い、ローランは炎の魔法を、シャルル殿下は氷の魔法を放ち、激しい爆発音があちこちで起こり屋敷が崩れないのが不思議でしょうがなかった。


 勝負は互角に見えたが、だんだんとシャルル殿下がローランを圧倒していき、最後に彼の心臓部を貫き、幻影はサラサラとその姿を消していった。


「シャルが勝った……!」

『うむ。さすが前世から戦っていただけの事はある』

 飛び跳ねて喜ぶ私たちとは正反対に、アンジェリカは絶望の表情でその場に崩れ落ちた。

「あぁ、ローラン……私の愛するローラン……。もう、いい。もう疲れた。早く殺して……」


 この子はどうしてこんなにも悲観的なのだろう。その表情を見ていると、なんだか可哀想になってきてしまった。

 ここでシャルル殿下が口を開く。

「俺らはお前を殺しに来た訳でも願いを叶えに来た訳でもない。ただ確認をしに来た、本当にそれだけだ」

『アンジェリカ! 我はファフニールだ。我の事を覚えてはおらぬか!?』

 ファフニールも殿下に続いてそう呼びかけた。


「ファフニール!? 本当なの!? ……勇者の痣を付けて欲しいと来た子の事ね……。ローランの幻影がやられたのは初めてだし、ファフニールが従っている。いいわ、話してあげる」

 アンジェリカはそう言って奥の部屋へと入っていったので、私たちもそれを追いかけた。


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