第9話 聖女の証
シャルル殿下の唇がそっと離され目を開けてみると、彼は優しく微笑んでいた。思わずその笑顔にポーッと見惚れてしまう。
今の夢のようなひと時は本当に現実だったのだろうか。そんな錯覚に襲われる。
『おぉ……なんと、これは……!』
ファフニールは何かに独り驚いている。
そしてシャルル殿下は自身の提げているカバンをガサゴソと漁ると、小さな手鏡を取り出した。
「こんな小さな物しかなくて申し訳ないが、確認するには十分だろう。どうだ? 見てみてほしい」
導かれるままに彼の持つ手鏡を覗き込むと、そこにはクリクリのぱっちり二重で綺麗な白い肌の美少女が映っていた。
「え!? 誰!?」
「どうやら封印は解除できたらしいな。ファフニールから見ても、彼女の容姿は変わったのだな?」
ファフニールはゆっくりと頷く。
『口付けを交わした後、ジェニーの容姿がみるみるうちに今の容姿へと変化したのだ』
だからファフニールはさっき独りで驚いていたんだ……。
「ジェニー。俺には初めからお前はその容姿に見えていたんだ。伝承もどこまで本当かが分からなかったから、その事が頭から抜けてしまっていた。そのため俺の配慮が足りていなかった、すまなかったな」
「何の事を言っているのか、さっぱりです……」
私がそう困り果てると、彼は軽く頷いて口を開いた。
「そうだよな。伝承では、聖女は勇者と出会い口付けを交わすまで、他の誰の気も惹かないよう
「え……つまり、それって……」
「これでハッキリとしたな。お前は間違いなく俺の代の“聖女”だ。何も聖女の証は痣だけではない」
「嘘……。私みたいなモブが……」
「そうだ、その“モブ”とはなんだ?」
「えっと、私で言うと、ただの何でもない村人……って事です。国のお姫様であったりとか、貴族令嬢でもない、ただの村人……って意味です」
私がそう答えると、シャルル殿下は納得したようにうんうんと頷いた。
「なるほど。その点で言っても、もし国の王女や貴族の娘に生まれてしまっては、どんなに醜い姿で守っていても政略結婚というものがあるだろう。だから、聖女は勇者と巡り合う確率を上げるため、お前の言う“モブ”である可能性が高い。これも、聖女の証であると言えるな」
「そう……なんですね。では、なぜセイラに
「んー、それなんだが……ジェニー。お前もうどこかに出ているんじゃないか? その様子だと痣がどこかにあるかもしれないと、探した事なんてないだろう」
「確かに、探した事はないですが……」
「では、俺は背を向けているから、探してみてくれ。ファフニール、お前もだ」
『御意』
シャルル殿下とファフニールが私に背を向けた。つまり、服の中とかを探せって事だよね。
私は早速あっちこっちを探してみる。
すると……。
「あああああっ! ありました!」
殿下の痣とは全く模様の違う、まるで花のような痣を見つけたのであった。
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