第10話 最初の仕事
「やはりか! どこにあった? 俺も確認できる場所か?」
シャルル殿下は背を向けたままそう尋ねる。
「えっと……はい、私は良いんですけど……」
私がそう言うと彼はファフニールと共にゆっくりと振り返り、ワンピースを捲し上げて大きく露出された私の太ももに目をやった。その瞬間顔を真っ赤にする彼。
「なっ!? そんなとこ見ても良いのか!?」
「あの、セイラみたいなことするつもりはないんです。殿下がお嫌でなければ……」
「分かった、確認させてもらう……。どこだ?」
殿下はそう言って私の前で
「あの、ここら辺にありませんか?」
太ももの上の方を指し示すと、彼は「あぁ、確かにあるな!」と声を上げた。
『人間ではない我にも分かるぞ……。とんでもなく卑猥な事をやっているな、主ら……』
ファフニールの引き気味な声が脳内へと響いてくる。
「うっ、うるさいぞファフニール!」
殿下は立ち上がり、顔を真っ赤にしてファフニールへと突っかかっていた。
「すみません……こんなところにあって……」
「いや、お前がそこに付けようと思ってやったのではないだろう? ジェニーが謝る事ではない。それに……花の模様……“聖女の痣”で間違いない」
「聖女の痣は、勇者の痣とは違うのですね……」
「そうだ。勇者は盾の様な模様で、聖女は花の模様だと言われている」
「あれ!? でも、セイラの痣は……」
私がハッとしてそう言うと、シャルル殿下はうんと頷く。
「俺の模様を模していた。つまり……あの痣は偽物だ」
「ええええっ!? でも、
頭の中がぐるぐると回る。セイラは……偽物の聖女? 嘘の痣? この4年間、嘘吐いてたの!?
「あぁ。その件に関しては色々と確かめなくてはならない。そのためにもジェニー。ひとまず聖女としての最初の仕事だ」
「最初の仕事?」
「あぁ、このファフニールには邪竜の呪いがかけられている。それを解いてやってほしい」
『頼む』
ファフニールはゆっくりと頭を下げて、私の前で伏せるような体勢をとった。
「ど、どうやって!?」
パニックになる私。シャルル殿下はそんな私の両手を取り、ファフニールの顔の上へと乗せる。
「このまま魔力を押し込めばいい。目を閉じてお前の中に流れているものを感じろ」
「流れているもの……何だろう、白く透き通ったものがあるような……」
「そうだ。それを前へ押し出すようイメージをするんだ」
「こう、かな……?」
「お、良いぞ」
私の両手のひらから白く強い光が飛び出し、ファフニールを包み込んでいく。すると、彼をまとっていた黒いモヤがスーッと消えていき、全身の鱗の色も鮮やかな緑色へと変化していった。
『ありがとうジェニー。あぁ、何百年ぶりにこの姿に戻れたことか……』
ファフニールはそう言うと、ポンッと煙を上げて手乗りサイズのマスコットの様な姿へと縮んだ。
「えっ、可愛い!?」
そう言う私の肩の上へチビファフニールがパタパタと飛んできて、着地をする。そして、巨竜の時とは打って変わってキンキン声でこう言った。
『あの邪竜の姿では目立ってしょうがないからな。全く厄介な呪いをかけてくれたものよ』
「悪いがファフニール。その呪いをかけた相手も何百年前の人間だ。犯人捜しまでは付き合わんぞ」
『構わん。恩返しに主らの足となり旅の手助けをしよう』
「それは助かる。ではジェニー。ゆっくりと落ち着いて話のできる場所へと移動するぞ」
「はい」
こうして邪竜へ食べられるはずだった私は、まさかのシャルル殿下とチビ竜と共に火山洞窟を後にするのであった。
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