第2話 勇者と女神

 私は火山への道を歩きながら、再び過去を振り返った。


⸺⸺4年前⸺⸺


 私とセイラは14歳。セイラはどんどんと色気が出てくるのに、私は相変わらずブスだった。


 『長寿の水』を買っている貴族の噂を聞き付けてか、国の王太子様がはるばるこのエッケの村までやって来た。

「うわぁ、シャルル王太子殿下……すっごいイケメン……」

 私は無意識にそう声が漏れ、ポーッと見惚れていた。確かシャルル殿下は18歳。金の長髪を後ろで束ねて、まだ10代だと言うのにとても大人っぽく、同じ10代の私とは異次元のお方だった。


 急に訪れたシャルル殿下に村中はパニックで、村長の家は慌てておもてなしの準備を始めたりと、てんやわんやだった。


 シャルル殿下が私の真横を通り過ぎる瞬間、彼はハッと私の方を振り返る。そして、まさかの発言をした。

「お前が……この村で噂の聖女で良いか?」

 低く、落ち着いたトーンのイケボ。そして真っ直ぐに、私の目を見てくる。


「ふぇっ!? ち、違いますよっ! 聖女は村長の孫娘のセイラです!」

「ふむ……。その娘はどこに? 案内を頼む」

「は、はいっ! こちらです!」


 案内する間、シャルル殿下は私の事をジーッと見つめていた。顔から火が出るほど恥ずかしい。こんなブスの顔をシャルル殿下に間近で見られる事になるなんて、最悪だ……。


「あの、こちらです……えっと、まだ準備中みたいで……セイラだけ呼んできましょうか?」

「準備? 何の準備だ?」

「あの、シャルル殿下をおもてなしする……」

「何? そんなもの必要ない。準備をやめさせるため、お前も一緒に来てくれ」

「え、ちょ、え!?」


 シャルル殿下は私の腕を掴んでズンズンと家の中へと入っていく。私の目に映ったのは、彼の手の甲にある不思議な模様の青いあざだった。


「シャ、シャルル殿下!? すみません、まだ準備が整っておりませんで……!」

 村長が冷や汗を流しながら必死に彼を止める。

「もてなしの準備など必要ない。ある用事で少し立ち寄っただけだ。用が済めばすぐに帰る。即刻準備をやめさせろ」

「で、ですが……」


「これは命令だ。すぐやめさせろ」

「はい、只今!」


 村長が家の奥へ戻っていくと、シャルル殿下はリビングのソファへ腰掛けて村長の戻りを待っていた。

 なぜ連れて来られたんだろう。私はそう思いリビングの端に立って空気になった。


⸺⸺


 10分ほどで、村長が戻って来る。

「シャルル殿下、準備を中止させて参りました。遅くなり申し訳ございません。わたくしめがこの村の長でございます。本日は、一体どのようなご用件で……?」


「この村の聖女を我が妻として娶りに来た」

 シャルル殿下は何のためらいもなくそう言った。聖女を、妻に!? つまりセイラは、王太子のお嫁さんに……。


「なんとっ! 急にそんな事を言われましても……。ほら、女神の生まれ変わりである聖女は、勇者の生まれ変わりの者と結ばれると、そう言う言い伝えがございますでしょう……」

 村長は必死にそう訴える。セイラを渡したくはないんだ。


「2人が結ばれればその勇者の代は繁栄を約束されると、そう言う言い伝えであろう?」

 と、シャルル殿下。

「はい、仰る通りでございまして……」


「俺が、その勇者の生まれ変わりだ」

「えっ!?」

 シャルル殿下が手の甲の痣を見せると、近くにいた者も皆驚き彼の手に注目した。


「勇者である者も聖女である者も、18になれば身体のどこかに痣が発現する。俺はこの痣が発現し、聖域に足を運び勇者である事が正式に認められ、それからずっと聖女を捜していた。そしてこの村に辿り着いたと言う訳だ」


「シャルル殿下! あたしが聖女のセイラでございますっ!」

 セイラは胸元の思いっきり開いた服を着て、小さい胸を中央に引き寄せながら躍り出てきた。



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