8月28日10時15分:組織③

「調合」は無事終わり、完成した〈新薬〉は既に八木の手にある。オズワルドの乗車も確認した。人事は既に尽くした。しかし、アジトの空気は、一仕事を終えたあとの達成感とは程遠い張り詰めたものになっていた。天命がちょっと意地悪すぎる!

狭い部屋に15人が詰めているとは思えないほどアジトの中は静かだった。一人の男の沈黙がうるさすぎるからだ。額に青筋を走らせ、激しく貧乏ゆすりをしながらひときわ巨大ないら立ちをあらわにする男、すなわち支部長・吉永である。

あと一歩で、計画は成功する。5年もの歳月をかけた、命がけの計画が!

なのに!その計画が、警察でも、米国本部でもなく、電車の遅延という馬鹿馬鹿しいほどシンプルな障害によって阻まれている!!

まずいまずいまずい!

だ、大丈夫。まだ時間はある。10時30分までに電車が動き出せば、ギリギリ10時40分ののタイムリミットの前に計画を実行に移せる。

15分以内に電車が動き出せば生存、動かなければ死。

冗談じゃない!電車の遅延なんぞのせいで死にたくない!!

とはいえこちらから何かできるわけでもない。

結局のところ、吉永はこうして貧乏ゆすりをしながら声にならぬ叫びを虚空にぶつけることしかできないのだった。

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