8月28日9時53分:乗客②

おっさんの暴走は止まらない。

「チクショウ!!」ここまでの罵声のデシベルの最高値を更新しつつ、同時にドカンという大きな音が車両の中に響く。床を蹴ったのだ。ひときわ大きな音に驚いた乗客の肩が一斉に小さく飛び上がった。塩野は鼓動が少し早まるを感じながらも、一方で「おっさんから目に見えない波動が出たみたいだなぁ」と冷静に周囲の乗客の反応を見回す余裕もあった。

車内前方に目をやると、大股を開いて椅子の上でふんぞり返ったおっさんが、ガン、ガン、ガン、とリズミカルに床を蹴っている。

他の乗客のうんざりしたような顔が、塩野にも感染していく。大声で喚くだけでなく、物に当たり始めたとなると、厄介度は跳ね上がる。エスカレートして他の乗客への暴力行為に及ぶ可能性もある。

「この野郎!くそが!ふざけんな!」ドン、ドン、ガン

「チクショウ!クソ!死ね!」ガン、バン、ドカン

対象の脅威判定が更新されました、とどこかのアニメで聞いたセリフが塩野の頭をよぎった。


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