第17話

お昼休みに、スマホを見ると、ハルから、LINEのメッセージが来ていた。

 "昼休みにクレイマークレイマー借りてきた"

  と、DVDを持ったハルの顔写真付きだった。

 "帰ったら、一緒に観ようね♪"

 "泣けるよ"

  と返信した。

 "ジャケット観たけど、名作っぽいね"

  と返信が来た。

 "そうだよ、古いけどね"

 "ゆり、映画詳しいんだね"

 "明日のも楽しみ"

 "初デート♪"

 "そうだね"

 "今夜も俺晩飯作るよ"

 "ありがとう。楽しみ"

 "じゃあ、また後でね"

 "うん、また後で"

  バイバイしているキャラクターのスタンプが送られてきたので、私も、スタンプを送った。

「お疲れさまでした」

  と、職場の人達に挨拶をして、家路についた。

  家に着くと、ハルがもう来ていた。

  いい匂いがした。

「お帰り~!」

「ただいま!」

  と言ってキスをした。

「今日は、親子丼作った!」

「いい匂いする」

  私は、手を洗いながら言った。

「さあ、食べよう!」

  ハルが言った。

「美味し~い!ハル凄いね。お嫁さん要らないかもよ」

「そんな事言わないでよ」

「こんだけ料理出来たら、奥さん負けちゃうよ」

「ゆり、あんまり料理しないの?」

「今は、一人だから、適当な料理ばっかりだよ」

「そっか」

  親子丼を食べながら、お互いの今日の出来事を話していた。

  二人で食器を片付けて、クレイマークレイマーを観た。

  フレンチトーストとアイスの場面を観た時、コレコレと私は、言った。でも、最後は二人で泣いていた。

「いい映画だったね」

  ハルが言った。

「うん、子どもが可愛いよね」

「ゆり、子ども好き?」

「苦手かな?」

「なんで?」

「接し方が、わかんない」

「そっか」

  私達は、黙ってしまった。

「ゆり、好きだよ」

  ハルが言った。

「私も、ハルが好き」

「どこが好き?」

「寝癖?」

  ハルが、笑った。

「ハルは、私のどこが好き?」

「全部好き」

「なんかずるい」

「えー、だって好きになっちゃったんだもん。理由無いよ」

「私も、なんていうか、ハルが愛しい」

「あ、俺も、愛しい。すぐ会いたくなる」

「うん」

「すぐ、チューしたくなる」

  私は、笑った。

「今日も一緒にお風呂入ろうよ」

「いいよ」

  と言うと、ハルが、私の服をゆっくり脱がせていった。

  二人で、お風呂上がりに、バスタオルのまま、炭酸水を飲んでいた。

「炭酸水いいね」

  ハルが言った。

「また、頼まないと」

  私が言った。

  ハルが近付いてきて、キスをした。

  私達は、裸のままベッドに潜った。

  ハルが、いたずらっ子のように、私の身体の全てにキスをした。

「ゆり、愛してる」

  私の上で、ハルが言った。

  私が話そうとしたら、キスをして遮った。

  私達は、いつの間にか抱き締めあって寝ていた。

  薬も飲まず眠れる事なんて、皆無だった。

  私が目覚めたのは、6時だった。裸のまま、起き上がり、薬を飲んだ。

  ハルにはもう、私の情けない姿を見せたくなかった。

  もう一度ベッドに潜ると、まだハルは、寝ていた。

  私は、静かにハルにキスをした。

  するとハルが、目をパチっと開けた。

「起きてるよ~」

  とずるい顔で言った。

  私は、驚いて、びくっとした。

「ビックリした~」

「おいで」

  右手を引っ張られ、またベッドに潜った。

「ねぇハル。こんななのに、入ってこないの?」

「ゆりを壊したくないんだ」

「壊す?」

「身体だけじゃないでしょ?愛って。だから、まだ、しない。あ」

「ん?」

「でも、ここにはある」

  ベッドと布団の間に、コンドームの箱があった。

「俺、考えたんだ。ゆっくりでいいんだ」

  と言ってハルは、キスをした。

「ゆりと始めてするのは、ゆりが俺を愛してるって感じた時」

「愛してるよ?」

「わかってるよ、でもまだなんだ」

  ハルは、言った。

「その頃、私が、おばあちゃんになっちゃってたりして」

「それはないね。でもそれくらい、一緒にいたい」

  とハルは、私の前髪を触った。

「ゆり?」

「何?」

「今日の映画、今度にしない?」

「え?どうして?」

「今日はずっと、このままでいようよ」

「うん、わかった」

  私達は、お互いの身体を観察しあった。

  ほくろが、どこにあるか?子どもの頃の傷痕、アザ、爪の形等々動物の子どもがじゃれあってるみたいだった。

  もう、お昼を過ぎていた。

  観察が終わると、ベッドから出て、服を着て、カーテンを開けた。

「そうめんでも、食べようか?」

  と私が言った。

「うん」

  ハルが頷いた。

  食事が終わって、ハルがスマホを見ると、

「マスターから、LINEが来てる。店開けてるって!」

  と言った。

  私のスマホも見ると、同じメッセージが来ていた。

「行ってみようか?」

  ハルが言った。

  私は、頷いた。

道にエルフの看板が、出ていた。

「マスター、驚かそうよ!」

  ハルが、私の手をひっぱって言った。

「どうやって?」

「俺、先に入るから…」

  と、ハルがエルフのドアを開けて入った。

「マスター、俺、彼女出来た!連れてきたから」

  ハルの声が聞こえた。ドアが開いて、ハルが私に手招きをした。

「じゃーん!」

  とハルが私の右手を引っ張った。

「ゆりちゃん?」

  マスターは、驚いた顔で言った。

「こんにちは」

  と私は、言った。

「マスター、驚いた?」

  ハルが、いたずらっ子のように言った。

「う、うん」

  マスターは、頷いた。

  私は、ハルに隠れるように立っていた。

  二人でカウンターに座って、カフェオレを頼んだ。

「いつから?」

  マスターが、言った。

「先週の木曜から」

  ハルが言った。耳が赤かった。

「猛アタックだな、良かったじゃん」

  マスターが、カフェオレを出しながら笑顔で言った。

  私は、少し恥ずかしかった。

  今日は、ともみちゃんはいなかった。

「ゆりちゃん、顔赤いよ?」

  マスターが、言った。

「照れてる?」

  ハルが言って、頬を触った。

「ゆり、熱あるんじゃない?」

  ハルが、おでこも触った。

「ちょっと、頭痛い」

私が言った。

「風邪ひいたんじゃない?」

  マスターが、言った。

「ゆり、大丈夫?」

「うん、どうしたんだろう?これ飲んだら帰ろうか」

「マスター、ごめん、帰るわ」

  ハルが言った。

「うん、ゆりちゃん、お大事に」

  ハルが会計を済ませ、私達は、エルフを出た。

「薬局寄ってく?ゆりんち、体温計ある?」

「無い。鎮痛剤はあるから、それ飲んで寝る」

「じゃあ俺、体温計持ってくるわ」

  ハルは、一度私を部屋に、送ってくれて、出ていった。

  私は、解熱鎮痛剤を飲んで、ベッドに潜り込んだ。

  暫くしてハルが、戻ってきた。

「ゆり、大丈夫?」

  と、おでこと首もとを触りながら,体温計を脇に挟んでくれた。

  そして、体温計と一緒に持ってきてくれた冷却シートを、おでこに貼ってくれた。

「結構熱いな…」

  体温計がピピとなった。

「マジか…」

「何度?」

「38℃」

「さっき、薬飲んだから、効いたら下がるよ」

「だと、いいけど…病院行こうか?」

  ハルが、不安そうに言った。

「ハルは、大丈夫?」

  私は、ハルのおでこを触った。

「俺は、全然元気!お粥作るよ。明日仕事休んだら?」

「うん、電話してみる」

と、私は、ベッドから出て、職場に電話してみた。

発熱した事を主任に伝えると、休んでください、と言われた。

「休んで良いって」

「良かった。ずっと、裸だったからかな?」

「わかんない。ハルがチューし過ぎたのかもよ」

  私が言った。ハルの耳が、赤くなった。

「パジャマに着替えて、横になってなよ」

  ハルが誤魔化すように、言った。

「うん」

  私は、頷いた。

「ゆり、出来たよ、食べよう」

ハルが、卵が入ったお粥を作ってくれた。

私は、頭が、ガンガンしていた。

「お粥食べるの久しぶり。病院思い出す」

「入院してた時?」

「うん、胃潰瘍だったから」

「そっか」

「ハルのお粥、美味しい」

「ありがとう」

「今日は、ちゃんとパジャマ着て抱っこするからね」

「ハル、こんなにうちに居ていいの?」

「大丈夫だよ。親父に言ってきた、ゆり、熱出たからって」

「そう、ごめんね」

「気にすんなって」

「うん、ありがとう」

お粥を食べ終わって、歯磨きをして、薬を飲み、ベッドに潜り込んだ。

ハルが、食器を片付けてくれて、私を抱き締めてくれた。

「頭痛い」

「ヨシヨシ、俺が付いてるから、安心して、寝て」

「うん」

と言って目を閉じた。

夜中、目が覚めて時計を見ると、午前2時半だった。

もう一度、体温計で計ってみると、39℃に上がっていた。

ハルは、寝ている。

私は、冷蔵庫の炭酸水を出して、両脇に挟んだ。

頭痛と吐き気で、具合悪かった。

「ハル、吐きそう」

私は、言った。

ハルが、目を覚まし、

「どうした?」

と言った。

「吐きそう…気持ち悪い」

「えっ、ちょっと待って!」

ハルは慌てて、コンビニの袋を持ってきてくれた。

間に合ったが、ハルの作ってくれたお粥は、全部出てしまった。

「熱は?」

「39℃に上がってた」

「病院行こう」

パジャマの上に服を着せられ、

「ちょっと待ってて車持って来るから」

 とハルが言って、部屋を出た。

ハルが連れてきてくれた病院は、私が通っている病院だった。

病院に着くと検温され、40℃まで上がっていた。

インフルエンザの検査をしたら、陽性だった。こんな時期でも、インフルエンザにかかるんだ、と思った。

直ぐに、薬を飲み、暫く点滴する事になった。

ハルは、ずっと側に居てくれた。

「ハルは、大丈夫?」

「元気だって!病院来て良かったな」

「ハルにうつらなきゃいいけど」

「大丈夫だって、少し寝なよ」

「うん」

私は、目を閉じた。

もうすぐ4時だった。点滴も終わり家に帰ってきた。

「俺、ずっとゆりの側に居るから安心して」

「うん、ハルありがとうね」

「気にすんなって!」

私達は、いつの間にか眠っていた。

閉めたカーテンの間から、陽が差していた。

6時にアラームが鳴って起きた。ハルは、まだ寝ていた。

私は、熱を測ってみた。38℃。だいぶ下がった。

インフルエンザって事は、熱が下がっても、外出禁止らしい。一人暮らしの人は、どうするんだ?と思ってた。

私も、ハルが居てくれたから、こうしていられるけど、一人だったら、どうなってただろう?と不安になった。

ハルは、仕事があるから、起こさないとと思ってた時、ゆり?とハルが呼んだ。

「起きてて大丈夫?」

「うん、熱38℃だった」

「だいぶ下がったね、ちょっと安心した」

ハルが私の首を触った。

「ハル居なかったら、私一人で、辛かったと思う。ありがとうね」

「どういたしまして」

と言ってハルが笑った。

「仕事暫く休まないといけないね」

「うん、1週間くらい?」

「そうみたいだね」

「もう、大丈夫だよ。熱下がったし、ハルにうつったら困るから…」

「俺は、大丈夫。まだ、横になってた方がいいよ」

と、私をベッドに潜らせた。

「ご飯、食べれそう?」

「うん」

「お粥作るよ!」

「ありがとう」

 ハルが、台所に立った。

 私は、うとうとしていた。

 ハルは、どこかに電話しているようだった。

 いつの間にか寝ていた。

「ゆり、ご飯食べれる?」

  時計を見ると、8時だった。

「寝ちゃった」

「親父に言ったら、仕事休めって言われたから、ゆりんち居ていい?」

「えっ、いいのかな?」

「うん。心配だから」

「ハル、ありがとう」

「いいんだ。ご飯食べよ!」

  お粥を二人で食べた。

  なんだか、涙がポロポロ出た。

「どした?ゆり」

「嬉しくて」

「俺と居て幸せ?」

「うん」

「ゆり、インフルエンザだけど、俺も幸せ」

「うん」

  ハルが、私の涙を拭いてくれた。

「ずっと、一緒に居れるといいね」

と、ハルが言った。

「うん、そうだね」

  私達は、始まったばかりなのに、私は結婚の事を考えていた。ハルは、どうだろう?ずっと、一緒に居られるのは、幸せだけど、それだけじゃない。

「ゆり?具合悪いの?」

  ハルが私の顔を覗きこんだ。

「大丈夫」

「ハルに、甘えたいけど、うつしたら困るなと思って」

  私は、笑って言った。

「なあんだ、うつったら、ゆりに看病してもらう」

  とハルは、耳を赤くして言った。

「もちろん」

  私は、鼻声で言った。

「俺、ずっと側に居るから安心して」

「うん、ごちそうさま」と言って私は、食器を片付けた。

「俺やるから、寝てて」

  私は、頷いた。

  私は、ベッドで、ハルは、その側に座って、米津玄師クンを聴いていた。 

「米津クンも生で観たいな」

  私が言った。

「行こうよ、一緒に」

「うん、約束」

  私が左手の小指を出した。私達は、指切りげんまんをした。

「寝ていいんだよ、ゆりまだ、顔赤い」

「うん。ハルは優しいね」

「何?当たり前じゃん。ゆり治ったらさ、温泉でも行こうよ」

「うーん。私、水怖いんだ。泳げなくてさ。海とか湖とか、おっきいところ」

「じゃあ、部屋に露天風呂付いてるとことかさ、ダメかな?」

「それだったら、大丈夫かも」

「二人で一緒に入れるし!」

「そうだね」

  と、私は、笑った。

「職場に連絡しなきゃ!」

  私は、主任に、インフルエンザにかかった事を伝えると、1週間の休みを言われた。

「マスターから、LINEでゆり大丈夫か聞かれたから、インフルエンザって送ったら、驚いてた」

 ハルも、スマホを見ていた。

「マスター、大丈夫かな?」

「大丈夫でしょ?」

「うん…」

  私は、元奥さんの事を思っていたけど、ハルは、インフルエンザの事だと思ったみたいだった。

  私は、いつの間にか寝ていた。

  ハルは、スマホを見ているみたいだった。

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