第22話
季節が変わり、もう、半袖もしまおうとする気温になってきた。
私の職場は、ハロウィーンの装飾がされ始めていた。
ちょっとこわい存在だった、佐竹さんは、佐藤さんも口説いていたらしいけれど、断られて、新しく入ったバイトの子と付き合っているようだった。少しホッとした。
私たちは、私の休みの日は、ハルが、泊まりにくるように、なんとなくなっていた。私の部屋に、ハルの物も増えていった。相変わらず、一緒にお風呂に入ってはのぼせて、炭酸水を飲んでいた。
「ゆりって、誕生日いつなの?」
ハルが聞いた。
「10月4日」
「もうすぐじゃん。なんで早く言わないの?」
「えー、聞かれないと言わないでしょ?ハルは?」
「12月20日」
「coldrainのLIVEのちょっと後だね」
「温泉行こうよ!誕生日祝い」
「そうだね!明日、休み貰えるか聞いてみる」
「これからずっと、年とっても二人で、祝おう!」
「うん」
私達は、笑いあった。
その夜は、二人とも寝付けなかった。
「ゆり?」
「ハルも、眠れないの?」
「うん」
「珍しいね。いつもすぐ寝ちゃうのに」
「温泉、楽しみで寝れない」
「子どもみたい」
私は、笑った。ハルが、私の胸に顔を埋めた。
「ハル?どうしたの?」
「どうもしないよ」
と言ってキスをした。
「ゆりとずっと、こうしていたいな」
「抱っこ?」
「うん。1日24時間じゃ、足りないよ」
「でも、長く感じる時もある。働いてる時とか?」
「あー、それあるな。ヒマな時とか」
「1日が100時間になっても、同じ事考えてるんだろうね、きっと」
「ゆりと居たら、足りなく感じる」
私は、ハルの頬を触った。
「ハル、今日は寝ない?」
「うん」
私達は、長い甘いキスをした。
次の日私は、主任に休みの相談をして、10月4日と5日の休みを取る事が出来た。その事を昼休みにハルにLINEで知らせると、ハルが、前に言っていた部屋に露天風呂がついている温泉の予約を取ってくれた。
"ハル、ありがとう"
私がLINEのメッセージを送ると、
"楽しみだね"
とハルから、返信が来た。
私の誕生日の前の日の夜から、ハルと過ごした。
夜中、0時を過ぎるとハルが、
「誕生日おめでとう」
と言ってキスをした。
そして、小さな可愛い箱を私にくれた。
「前に言ってた、ピアス」
「ありがとう。嬉しい」
ハルは、優しくピアスを付けてくれた。揺れてキラキラするダイヤのピアスだった。
「ゆり、可愛い」
と言って私を抱き締めた。私は、ハルの耳元で、
「ハル、愛してる」
と言った。
「俺も、愛してる」
と、耳にキスをした。
この地球上で、一番幸せな二人なんじゃないかと思った。
その夜、初めて愛しあった。
朝8時に、二人で旅行の用意を始めて温泉に向かった。車で2時間くらいの温泉地だった。途中のお蕎麦屋さんで、昼食を食べて、チェックインした。
「ホントに露天風呂ついてる!」
私は、部屋に入るとテンションが上がっていた。ハルが、近づいてきて、私の服をどんどん脱がしていった。
「もう、お風呂?」
「うん」
ハルが、頷いた。
二人で、露天風呂に入った。家のお風呂と違って広い。ハルは、私を後ろから抱き締めると、
「気持ちいいね」
と言った。
「うん、広いし。でも怖くない」
「来て良かった?」
「うん。ハルと一緒に来れて良かった」
と言った。
「ハル、お願いがあるの」
「何?」
ハルは、私の顔を覗き込むように聞いた。 「絶対、私より先に死なないで」
「うん、わかった」
自信満々で答えたハルが、愛しかった。私は、泣いた。
「もう、上がる」
と言った私の左手を掴んで、ハルが、言った。
「二人で、長生きしよう」
そしてキスをした。
私達は、用意されていた浴衣に着替えた。ハルは、私に、浴衣良いね~を繰り返していた。
暫くすると、夕食が、運ばれて来た。豪華な食事だった。
「こんなに食べられるかな?」
私は、言った。
「大丈夫だよ!食べよう」
とハルが、言って、ビールで乾杯した。
「ゆり、お誕生日おめでとう!」
「ありがとう!」
食事が終わると、私は、かなり酔っていた。布団が敷かれ、そこにゴロンと寝転んだ。
「ハル?私、酔っ払っちゃった」
「うん、胸元まで真っ赤だよ」
「1週間分くらいご飯、食べたんじゃないかな?」
「うん、俺もお腹いっぱい」
ハルが、私の横に寝転んだ。
「ハル?私のどこが好き?」
「どこもかしこも好きだな、嫌なところが無いところかな?」
「私は、ハルの笑った顔が好き。頼りがいがあるところも。あと寝癖」
「寝癖好きだね」
「うん、だって可愛いんだもん」
「カッコいいとこ無いの?」
「それは、勿論。私の彼氏だもん」
「俺、ゆりにはもっと甘えてほしいな?我慢してない?」
「我慢してるよ、少しだけ」
「どうして?」
「だって、ハルに嫌われたくないもん」
「嫌いになんて、ならないよ」
ハルは、起き上がって言った。
「ゆりは、もっと俺に甘えていいんだよ」
「うん、分かった。じゃあ今日も抱っこして寝てね」
私は、泣いていた。ハルが両手で私の顔を包み、涙を拭いてくれた。
「勿論だよ、おいで」
私がハルに近付くと、ぎゅっと抱き締めてくれた。
「またお風呂、入りたいけど、ゆり真っ赤だから、明日の朝にしよ」
「うん。眠い」
「じゃあ寝よう」
布団は、二組並んでいたけれど、私達は、その一つで、抱き締めあって眠りについた。
その夜、私は、夢を見た。多分、6歳くらいの私だ。
デパートに、両親と行っていたが、迷子になってしまった。心細くて泣いていた。すると大人のハルがやってきて、手を繋いで、一緒に両親を探してくれた。
いつまでも両親は、見付からない。悲しくて、目が覚めた。
隣には、私を抱き締めるハルが、スースー寝ていた。時計を見ると、2時だった。最近は、あまり夢を見なかった。ハルと居るとグッスリ眠れていたのに…
「ハル…」
と、私は、少しかすれた声で言った。ハルは、眠ったままだった。
涙がこぼれた。こんなに人を愛しく思ったのは、初めてかもしれないと強く思った。きっと、やっとハルに巡り合えたんだ。離婚しなければ、ハルの住む街には、来ていない。あの日、エルフに立ち寄らなかったら、出逢えてなかった。
涙が止まらなかった。
ハルが寝ぼけて、ゆり…と言った。私は、ハルを強く抱き締めた。
私は、朝4時くらいに目が覚めた。ハルは、まだスースー寝ていた。その寝顔を見て、幸せを感じていた。
「ハル?起きよう」
「ん?」
ハルは、寝ぼけて私をぎゅっと抱き締めた。
「お風呂入ろう?」
「うん…」
ハルは、まだ寝ぼけていたけど、しっかり私の浴衣を脱がそうとしていた。
「ゆり、綺麗だよ」
と言って、私の胸に顔をうずめた。ハルは、すっかり目が覚めているようだった。
二人で、朝日を浴びながら、露天風呂に入った。
「よく寝てたよ、ハル」
私は、ハルの寝癖を撫でながら言った。
「また、眠れなかったの?」
「ううん。ちょっと夢見ただけ。ハルが助けてくれる夢だった」
「へえ、どんな夢?」
「迷子になった、子どもの私を今のハルが、一緒に両親を探してくれた。悲しくなって、目覚めたけど」
「泣いていたの?」
「うん。でもハル、寝ながら、ゆり…って、言ってた」
「俺も、夢見てたのかな?」
「分かんない」
「ゆり、綺麗だよ」
空にはまだ、うっすら月が出ていた。
ハルは、私を後ろから抱き締めながら、耳にキスをした。
お風呂から上がり、帰りの支度をして、朝食を食べた。
「ハル?」
「何?」
「温泉良かったね。いい誕生日の思い出になった。ありがとう」
「これからも、色んなとこ行こうよ!」
「うん」
帰りの車の中で、coldrainを聴きながら、色んな事を話した。
「ゆりのご両親に挨拶しに行きたいと思ってる」
ハルが、運転しながら、言った。
「ハルのご両親にも、ちゃんと挨拶しなきゃね」
ハルは頷いて、
「年明けには、札幌へ挨拶に行こう。結婚しようね」
と言った。
「プロポーズ?」
「うん」
「わかった。私、ハルの子どもが欲しい」
「ホントに?」
ハルは、スピードを緩めた。
「あんまり思ったことなかったけど、ハルの事は、そう思うようになった」
「俺も欲しい」
「ハルに似た男の子がいいな」
「えー、俺は、ゆりに似た女の子がいいな」
「じゃあ、子どもは二人?」
「賑やかになるね」
「幸せになろうね」
「うん」
その後は、二人でcoldrainを熱唱しながら、帰路に着いた。
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