第12話

今日の勤務は、7時までだった。

 エルフに寄るか迷ったが、何となくやめた。

 家に帰り、久しぶりにバスタブにお湯をため、お風呂に入った。近藤くんは、どうしているかな?と考えていた。

 お風呂上がりに、炭酸水を飲んでいると、スマホに着信があった。誰だろう?と見ると、母からだった。私は、話したくなかったので、無視していた。

 LINEを見ると、近藤くんからメッセージが来ていた。 

"ゆりさん、会いたいです!明日のお昼休みは、何時ですか?"

 ドライヤーをかけながら、どう返事しようか、考えていた。私も、もう少しゆっくり近藤くんと話してみたかった。私のあんな状態を見ても、側に居てくれた。 

"これから、会える?"

 と送ってみた。時計を見ると9時を回っていた。すると、近藤くんから、LINEの電話がかかってきた。 

「もしもし、ゆりさん?」 

「近藤くん…」 

「エルフ、もう閉まっちゃうからどこか、違うとこ行きましょう!」 

「うん」 

「と言ってもファミレスとかしかないですけど…」 

「うん、わかった」 

「今、迎えに行きますから、待っててください!」 

「はい」

 と言って、電話を切った。

 私は、急いで着替えて、家の1階で近藤くんが、来るのを待った。5分くらいで、近藤くんが、"未来堂書店"と書いてある車で現れた。車を止めると、降りてきて私に、 

「部屋で待っててくれて、良かったのに…」 と言った。私は、小さく頷いた。

 近藤くんは、私を助手席に乗せ、車を発車させた。

 車は、国道沿いのファミリーレストランに着いた。明るい店内に入り、窓際の席に案内された。あまり、お客さんは、居なかった。 私達は、向い合わせに座った。そして、近藤くんは、コーヒー、私は、オレンジジュースを頼んだ。 

「ゆりさん、顔が赤いですね」 

「お風呂入ってたから、素っぴんだし」

 と、両手で顔を隠しながら言った。 

「素っぴんも可愛いです!」

 近藤くんが、言った。もう、泣き腫らした私の顔も知ってるくせに。 

「昨日は、ごめんね」 

「全然大丈夫ですよ!」 

「ほら、お昼休みだと、全然喋れないでしょ?」 

「短いですからね」

 近藤くんは、頷きながら言った。私は、どう切り出そうか迷っていた。 

「ゆりさん、俺、本気です。ゆりさんを幸せにしたい。てゆうか、一緒に幸せになりたい」

 近藤くんは、私の目を見て言った。 

「昨日の私をどう思った?」

 私は、少し意地悪な、聞き方をしたかもしれない。ちょうど飲み物が運ばれてきた。私達は、その間、黙っていた。 

「幸せに出来そう?」

 私が言った。 

「俺、わかんないけど…俺が側に居たら、ゆりさん、大丈夫だって思います」 

「どうして?」 

「病気の事は、わからないけど、ゆりさんを守る自信みたいなものが、湧いてきてます」 

「守る…か」 

「上手く説明出来ないけど、愛しくて、たまらないんです。今だって、周りに誰も居なかったら、抱き締めたいくらいです」

 私は、自然と涙が出た。 

「ゆりさん?」 

「それって、愛ってやつ?」 

「声も言葉も目も髪も口唇も、ゆりさんの何もかもが愛しいです」

 近藤くんは、ハンカチを渡してくれた。 

「ありがとう」

 私は受けとると、右手に持ったまま言った。 

「私、ずっと受け身だったと思うの」 

「受け身?」 

「男の人から好きって言われたら、私も、好きかもしれないって」 

「自分から誰かを好きになった事、無いんですか?」 

「あるよ」 

「あ、でもすぐ上手く行っちゃうんだ!」 

「そういえば、フラレた事、無いかも…」 

「愛が、わからないって、事ですか?結婚してたのに?」

 私は小さく頷いた。 

「今、俺が、愛の塊です!」 

「近藤くんが?」 

「はい、ゆりさんへの愛が、零れ落ちそうなくらい溢れてます」

 近藤くんは、耳が赤くなってた。 

「近藤くん、恥ずかしいと、耳、赤くなる?」 

「えっえっと…」

 と言って、両耳を触った。マスターの言う通りだ。本当に一途で真面目なんだ、と思った。 

「私、彼との最後に聞かれたの、愛してた?って、でも答えられなかったの」 

「そうですか…」 

「とっても大切な存在だった事は確かだったと思う」 

「それが、愛なんじゃないですか?」 

「そうなのかな?」 

「ずっとそばに、一緒にいたいって思うのが、愛なんじゃないですか?」 

「ありがとう、愛を教えてくれて」

 私は、涙目で笑った。 

「これから、たくさん会って話して、ゆっくりでいいです。俺の事、好きになってください」 

「…はい」

 と私は、言った。

 その後は、二人共好きな音楽の話や好きな事、物、嫌いな物の話をしていた。

「私、喉仏フェチみたいなの」

 私が言うと、

「喉仏好きって事ですか?」

 私は、頷くと、近藤くんは、

「どうぞ」

 と言って、顎を上げた。

 私が、手を伸ばし、近藤くんの喉仏を触ると、

「どうですか?好みですか?」

 と言った。

「うん、触りたくなるタイプ」

 と私が言うと、笑いながら、

「ゆりさん、面白い」

 と言い、両耳を赤くしていた。

 コーヒーは、冷たくなり、オレンジジュースは、氷が溶けて色が薄くなっていた。時計は、11時半を回っていた。 

「2日連チャンで、一緒に夜を過ごしてますね」 

「そうだね」 

「帰りますか?」 

「うん、また明日」

 会計を済ませ、駐車場に向かう時、空を見上げると月が綺麗に見えていた。 

「近藤くん、見て!」

 私が空を指差すと、振り向いて、近藤くんも空を見上げた。 

「綺麗ですね!」

 こうゆうものを共有できるのが、幸せなんだろうなと思う。車に乗ると、近藤くんは、coldrainをかけてくれた。 

「米津玄師も今度貸してください」

 近藤くんが、言った。 

「うん、わかった」

 私は、言った。

 私の家に着くと、名残惜しそうな顔で、近藤くんは、帰って行った。私は、良い疲労感で、眠れる気がした。

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