第19話

私の部屋に着くと、ハルが、

「絶対マスター、ゆり狙ってる」と言い出した。

「まさかぁ」

 私は言った。

「ゆり、マスターと、なんかあった?」

「ハルの事、相談した事ある。真面目でいいやつだよって、言ってたよ」

 私は、正直に言った。

「それだけ?」

「うん」

 やはり、それ以上は言えないし、言わなくていい事だと、思った。

「ねぇ、約束して。一人でエルフ行かないって」

「どうして?」

「心配なんだ」

「ちゃんと理由教えて」

 私は言った。

「ゆりは、俺の彼女でしょ?だから」

 私は、涙が出た。

「ゆり?」

「私が、マスターに取られそうだから?私、ハルに信用されてないの?」

「ごめん。不安なんだ」

「そんなに、器用じゃないよ、私」

「ごめん」

 ハルが、私の涙を指で拭いた。

「ごめん」

 ともう一度言って、私を抱き締めた。

「そんなに、私、危なっかしい?」

「ゆり、フラッとどこか行っちゃいそうで、怖いんだ」

「ハル…」

「だから、一緒に暮らしたい」

「やっぱり私って、捨て猫みたい?」

「え?」

「拾ってみたけど、扱い方がわからない猫」

「そんな事ないよ。ゆりは、俺の宝物だよ」

「大事にしまっておく?」

「そんなんじゃない!」

 ハルが、大きな声で、言った。

「ゆりは、俺にはもったいないくらいの女性だよ。愛してるんだ。わかってくれる?」

「痛い程わかってる。私が、ハルを不安にさせてるんだね。ごめんね」

「謝る事ないよ。ゆりも俺に愛をくれてる」

「うん。ハルが愛しい。ハルだけを愛してるから、安心して」

 ハルが、キスをした。

「そんなに、嫌だったら、もう私、エルフ行かないよ?」

「うん、一緒に行こう」

「うん、わかった」

 ハルを不安がらせてしまっていたなんて、1mmも思ってなかった。

「ハル?私、どこにも行かないから安心して」

「うん、わかった。もう言わないよ」

「ところでハルは、家に帰らないの?」

 ハルが、正座をした。

「ゆり、一緒に住もう!正式に」

「なんでそんなに、急ぐの?」

「少しでも、離れるのが、嫌なんだ」

「私、どこにも行かないから安心して。こんなに近くに住んでるんだもん、いつでも会えるじゃない」

 ハルの気持ちも、よく分かるし、私も出来るなら、そうしたい気持ちもあった。

「仕事終わって、帰ってきて、ゆりが居てくれたら、おかえりっていわれたら、どんだけ幸せ感じると思う?」

「誰かが、迎えてくれたら、嬉しいのはわかるよ。でも、早すぎない?」

「一緒に暮らしたい」

 私は、ハルが、こんなに頑固だと、思わなかった。

「1週間一緒にいて、思ったんだ。ホントは、結婚したい」

「え?」

「ゆりの弱いとこも、強いとこも、病気のことも、俺なら、受け入れられる自信がある」

 私も正座をした。

「わざわざ、こんなめんどくさい私を?」

「ゆりがいいんだ」

 私は、正直困った。少しの沈黙があった。どちらかが口を開いたら、何かが起こりそうな、気がした。

 私の動悸が、激しくなった。息が苦しい。鼓動がうるさい。

「ハルごめんね。ちょっと…」

と言って、ベッドに横になった。

ハルは、

「大丈夫?苦しいの?」

と、ベッドの側に来た。

「もう、誰かに依存するのは、嫌なの」

と、私は言った。

「依存なんて。俺だったら、大丈夫だよ?」

「ハルが、居ないと生きていけないって、思うようになるのが、怖い」

私は、ベッドの上で、つぶやくように言った。

「俺は、ずっと側に居るよ」

 ハルが、私の前髪を触りながら言った。その右手を私は、私の心臓のところにあてた。

「心臓は異常じゃないのに、鼓動が凄く速くなるの」

「うん。凄いドキドキしてる」

 ハルが、静かに言った。

「息も苦しい」

「うん」

「しょっちゅう、こんな風になるんだよ。平気?」

「ゆりはゆり、全部受け入れられる」

「わかった。でも嫌になったらすぐ言って。我慢されるの辛いから」

「大丈夫だよ。離れたりしない。ゆりが嫌だって言っても側に居る」

「それじゃ、ストーカーだよ」私は、笑った。

「今もうすでに俺、ストーカーかも」

「私もハルの事、大切に思ってるから、ストーカーじゃないよ」 

「一緒に暮らそう」

「うん」

 私は、頷いた。

 次の日、未来堂書店の閉店後に二人で、ハルのお父さんに会いに行った。

 ハルが、事務室に、私を連れて入っていった。

「父さん、ちょっと話があるんだけど、いい?」

 ハルが、ハルのお父さんに言うと、

「なんだ?」

 と、手を止めて、振り向いた。

「とりあえず、座って」

 ハルのお父さんは、近くの椅子に座った。私たちも椅子に座って、ハルが、

「仲原さんと一緒に暮らしたいと思ってる」

 と言った。ハルのお父さんは腕を組んでいた。

「ハル、出会って間もないだろう?」

「俺、本気なんだ。仕事もちゃんとする」

「そんなに急いでどうしたんだ?」

「ずっと一緒にいたいと思ってる」

 ハルは、前のめりでハルのお父さんに言った。

「仲原さんは、どうですか?」

 ハルのお父さんは、私に聞いた。私が、なんと言っていいか考えてると、

「ゆりも同じ気持ちなんだ」

 とハルが言った。

「俺は、仲原さんに聞いてるんだ」

 ハルのお父さんが言うと、私は、

「私も、許してもらえるならば、一緒に暮らせたらいいなとは、思っています」

「俺は、まだ早いと思う。半年は、付き合ってからにしなさい」

 とハルのお父さんが言った。

 ハルは、

「どうして?」

 と言った。

「まだ、出会ったばかりで、一番気持ちが高ぶってるんじゃないかと思う。別に、二人の交際を反対しているわけではないが、そのままの気持ちで暮らしていけるかわからないぞ」

 とハルのお父さんは言った。

「今までの人と違うんだ。ゆりとはこれからずっと、一緒にいる。結婚するつもりなんだ」

 とハルは言うと、

「それなら余計に、慎重になるべきなんじゃないのか?」

 とハルのお父さんが言った。

「わかりました。お父さんの言うことは、ごもっともだと思います」

 私が言うと、ハルが、

「ゆり、諦めるの?」

 と言った。

「ううん、付き合うの反対されてるわけじゃないんだもん、一緒に暮らすのは、ゆっくりでいいよ」

と私は言った。

「仲原さん、ハルは本気のようです。ハルと末永く仲良くしてやってください」

 と、ハルのお父さんが言った。

「はい、わかりました」

 私が言うと、ハルは少し泣きそうな顔をしていたが、納得したようで、

「わかった。父さんありがとう」

 と言った。

「ありがとうございました」

 私も言うと、

「ゆりを家に送ってくる」

 とハルは、立ち上がった。 

 二人で暮らすのは、ハルのご両親に反対されてまで、する事ではないと思った。

 これで、良かったんじゃないかと思った。

「お父さんの言う事聞こう」

 ハルの家から、帰る時、私は、落ち込むハルに言った。

「まさか、親父に反対されると、思わなかった」

「そりゃそうだよ。出会って2週間くらいしか、経ってないんだもん」

「でも、ゆりがインフルエンザの時は、側に居てやれって、言われたんだ」

「そうだったんだ。ハルのお父さんに感謝しなきゃ。お礼言えなかったな」

「いいよ。大丈夫」

 今度会う時は、ちゃんとお礼を言おうと思った。

「付き合うの反対されたわけじゃないし。やっぱり、ゆっくり進もう!」

「うん。ゆり、淋しくない?」

「いつでも、会えるじゃない」

「そうだけど」

 私の家に着いた。

「今日は、家に帰った方がいいよ」

「うん…」

 ハルは、名残惜しそうに、私の左手をとって繋いだ。

「俺、ゆりの事、真剣だから」

「うん。ありがとう」

 私は、手を繋いだまま言った。。

「じゃあ、また明日!」

「うん。じゃあね」

 私達は、手を振って別れた。

 私は、部屋に入り、ハルとの事を考えた。

 お父さんが反対するのも無理ないと思った。

 ドアホンが鳴った。モニターを見ると、ハルだった。ドアを開けると、

「忘れ物した」

 と言って、私にキスをした。

「じゃあね」

 と言って、帰って行った。私は、幸せを感じていた。

 ハルは、私の通っている病院に付いていくと言い出した。先生と話したいと言う。

 私達は、次の月曜に一緒に病院に向かった。

 私は、先生に、インフルエンザにかかった事とハルの事を紹介した。 

「今、お付き合いしている、近藤くんです」

 私が言うと、

「近藤悠です、よろしくお願いします」

 と自己紹介した。

 ハルは、先生に、

「ゆりの事は、僕がいつも付いているので、大丈夫です」

 と言った。少し恥ずかしかった。ハルの両耳が赤かった。

 先生は、苦笑いで、

「そうですか」と微笑んだ。

 病院から帰り、私達は、私の部屋で、昼食を食べた。

「ハル、急に先生に話したから、ビックリした」

「なんで?」

「なんか、もう病気も大丈夫ですみたいに、聞こえた」

「先生にも、知っておいてほしかったんだ、俺達の事」

「うん」

「俺、いつもゆりの事考えてる」

「私も」

「こんなに、誰かを好きになったの始めてかもしれない」

「そうなの?」

「今までは、家族とか友達も大切に思ってたけど、ゆりの方が、もっと大切に感じる」

「うん」

「ゆりとは、いつも笑って過ごしたいよ」

「そうだね」

 私は、笑った。

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