第27話
翌朝、9時のJRに間に合うように、部屋を出た。1時間半くらいで、札幌駅に着くと、地下鉄に、乗り継いで、私の実家に向かった。
実家の最寄りの地下鉄の駅に着いた時に私は、実家に、駅に着いた事を電話した。
実家まで歩いた10分くらいの間、ハルが、
「緊張する」
を繰り返し言っていた。
「私も、ハルの緊張が、うつってきた」
私が言うと、
「ごめん」
とハルが言った。
「リラックスしよう。多分お父さんお酒大好きだから、勧められると思うよ」
「マジか、俺酔うかも」
「大丈夫じゃない?」
私が笑うと、
「緊張する」
と、また言った。
「ここ」
実家に、着くと私がハルに言い、チャイムを押す前に、二人で深呼吸をした。
チャイムを押すと、母が出て、
「ゆりです」
と言って、玄関に入っていった。
「お邪魔します」
と言ってハルは、入って行くと、父も玄関に来て、
「いらっしゃい」
と言った。ハルが、
「少しですが…」
と言ってお菓子の袋を母に渡すと、
「わざわざ、ありがとうございます。どうぞ上がってください」
と母がスリッパを差し出した。
私達は、父と母に促され、居間のソファーに並んで座った。向かいに父が座り、母がお茶を出してくれた。私が、
「お母さんも座って」
と言うと、母は、父の隣に座った。
ハルが、
「お時間頂きありがとうございます」
と、話し始めた。続けて、
「ゆりさんとの結婚を許して頂きたく、本日お邪魔しました。ゆりさんを幸せにします。よろしくお願いいたします」
とハルが、頭を下げた。私も一緒に頭を下げた。
「こちらこそありがとう。ゆりが事故に遭った時に、もう決めているんだろうと思っていたよ。ゆりをよろしくお願いします」
父も頭を下げて言った。母も頭を下げた。
「近藤くん、硬い挨拶は、もういいだろう。昼は、寿司を取ったから、一緒に食べよう。久しぶりに、賑やかな食事になるな」
と父が笑顔で言った。
「お母さんも少し料理作ったから、ゆり手伝って」
と母が私に言った。私が立ち上がると、
「お母さん朝早くから、腕を振るってたからな」
と父が言った。
「近藤くんは、酒は飲める方かい?」
父がハルに聞くと、
「はい。ゆりさんはあまり飲めないので、最近飲む事は、少ないですけど」
ハルが言うと、父が、
「そうか。今日は私に付き合ってもらうよ」
と笑いながら言った。
私が、台所に行くと煮物や天ぷら等がダイニングテーブルにたくさんあった。
「お母さん、こんなにたくさんありがとうね」
私が母に言うと、
「いつも二人だから、こんなに作ったのは、久しぶり。夜に食べてもいいでしょ?」
と、私に取り皿と割りばしを渡した。
「そうだね。今日泊まらせてもらってもいい?」
私が聞くと、母は、
「もちろんいいわよ」
と言った。
「お母さん、ビールを頼む」
と父が言い、母が、ハイハイと言って、瓶ビールとグラスを居間に運んだ。
頼んでいたお寿司も届いて、居間のテーブルに並べると、父がビールをハルに勧めていた。
「近藤くん、もうネクタイ外していいよ。もう私の息子になるんだから。上着も脱いで」
と父がハルに言っていた。ハルが父のグラスにビールを注ぐと、
「はい、ありがとうございます、お父さん」
と言ってネクタイを外し上着を脱いだ。
「お母さんも飲まないから、一緒に酒が飲めるのを楽しみにしていたよ」
とお酒が入り、父が饒舌になっていた。
「お母さんもゆりも、座って、食事にしよう」
父が言ったので、母と私もテーブルに着いて、お寿司をつまんだ。
父もハルも相当飲んでいた。
「やっぱり昼間の酒は、効くな、近藤くん」
と父が言って、今度は、日本酒を飲んでいた。
「ちょっと飲むの休んだら?」
私が父に言うと、父が、
「なんだ、いいじゃないか、私は嬉しいんだ…」
と言って、泣き始めた。
「お父さん泣き上戸なの?」
私が母に聞くと、母は、
「よっぽど嬉しいのよ」
と言った。するとハルが、
「お父さん、僕、ゆりさんを幸せにしますから」
と、赤い顔で、言った。
「任せたぞ」
と父は言って、そのままソファーで、寝てしまった。
「ハル、ありがとう。もう飲まなくていいよ。お水持ってくるね」
と私は、台所に水を取りに行った。
母は、ソファーで眠る父に、ブランケットをかけた。
ハルは、水を飲むと、
「久しぶりにこんなに飲みました。お父さんお強いですね」
と母に言った。母は、
「たまには、飲ませてあげないとね。近藤くんは、大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
ハルが言うと、私が、
「今夜泊めてくれるって。荷物、部屋に置いてこよう。お母さん、私の部屋そのまま?」
と母に聞いた。
「ええ、そのままよ」
母が言うと、
「ちょっと、部屋で休んでもいい?」
と母に言うと、
「ええ、そうしなさい」
と言われた。
「2階だよ」
とハルに言った。
ハルと二人でバッグを持って2階に上がり、私の使っていた部屋に入ると、
「うわあ、ゆりの高校時代の写真?」
とハルが、壁に貼ってあった私の制服を着て写っている写真を見て言った。
「うん、昔のままになってる」
と、私が言った。
ハルが、
「やっぱりちょっと若いね」
と言って笑い、ベッドに腰掛けた。
「タイムスリップしたみたい」
と言い私もハルの横に座ると、続けて、
「青木さんとの思い出は、離婚を決めた時に全部捨てたの」
と、言った。
「そっか」
ハルは言うと、私の頭を撫でた。
「ハルは、休んでてもいいよ、私、食器とか、片付けてくる」
私が言うと、ハルは頷いた。
居間で食器を片付けようと、降りて行くと、テーブルの上は、片付いていて、台所に行くと、母が食洗機に食器を入れているところだった。
「食洗機入れたんだ」
私が言うと、母は、
「そうなの、お父さんが買ってくれたのよ」
と言った。そして、
「ゆりも休んでていいわよ。夕食の時呼ぶから」
と言ってくれた。私は、その言葉に甘える事にした。2階の部屋に戻ると、ハルは、すっかり眠っていた。
「飲み過ぎ」
私は呟くように言ったので、ハルは起きなかった。ハルの寝顔を見ながら、私達本当に結婚するんだ、と思っていた。
夕食の時間になり、母に呼ばれた。ハルを起こすと、眠そうに、
「寝ちゃってごめん」
と起きた。寝癖が出来ていたので、部屋にあったブラシで、直してあげた。
居間で、母の手料理を久しぶりに食べた。懐かしくて、涙がこみ上げてきた。
「ゆり?」
それに気付いた向かいに座った母が言った。
「お母さん美味しい。やっぱり母の味っていいね」
私が言うと、母はティッシュを私に渡しながら、
「ありがとう。ハルくんはどうですか?」
と言った。ハルが、
「はい、とても美味しいです。うちの母親は手抜き料理が多いから、うらやましいです」
と言った。すると父が、
「私も、ハルくんと呼んでいいかね?」
と聞いた。ハルは、
「もちろんです」
と言った。
食事を終えると、母に勧められ、ハルからお風呂に入った。次に私が入ると、この家で苦手だったお風呂は、すっかりリノベーションされていて、バリアフリーの足が伸ばせるバスタブにジャグジーまで付いていて、感動していた。
私がお風呂から出ると父に、
「お父さん、お風呂リノベーションしたんだね」
と言った。
「寒くてボロかったからな」
と言いながら父は、お風呂に入っていった。
2階の部屋に上がると、ハルに、
「ゆりんちのお風呂凄いね」
と言われた。私は、
「うん、リノベーションしたみたい。感動した」
と言った。
居間の父と母に、寝る事を告げに行くと、母だけがいた。
「お父さんは?」
と母に聞くと、
「もう、寝ちゃって」
と言われた。ハルと私は、母に、
「おやすみなさい」
と言うと、母は、
「はい、おやすみ」
と、言った。
2階の部屋で、アラームを6時にセットして、ベッドで一緒に寝ていると、ハルが、
「ゆりがこのまま、旭川で俺と暮らしたら、ご両親寂しいだろうね」
と言った。
「二人とも一人っ子だから、仕方ないよ。ハルは、三代目だし」
と、私が言うと、
「うん。ゆり、なるべく札幌に来るようにしよう」
とハルが言った。
「うん。ありがとう」
私は言うと、ハルが、
「明日、結婚指輪、見に行かない?」
と言ったので、
「じゃあ、駅前で見よう」
と私は言った。
そして二人で、
「おやすみなさい」
と言って、目を閉じた。疲れていたせいか、すぐに眠りについた。
翌朝、6時のアラームで私は起きたが、ハルは、起きなかった。
「ハル起きよう」
私は、着替えると、ハルがムクっと起き上がった。
「おはよう」
また凄い寝癖でハルが言ったので、私も、
「おはよう」
と言い、ハルの寝癖をブラシで直していた。
ハルも着替えて、2階から降りると、お味噌汁のいい匂いがしてきた。
父は、居間で新聞を読んでいた。
「おはようございます」
ハルと二人で言うと、父も、
「おはよう」
と言い、続けて、
「まだ、ゆっくり寝ていても良かったんだぞ」
と言った。
台所にいた母にも、二人で、
「おはようございます」
と言い、母は、
「おはよう、よく眠れた?ご飯食べるでしょ?」
と言い、朝食をダイニングテーブルに用意してくれた。
「お母さんは、食べたの?」
私が聞くと、
「お父さんと食べたわよ」
と言った。
「いただきます」
と言って、二人で、朝食を食べていると、母が、
「何時に帰るの?」
と聞いてきたので、私が、
「ちょっと、駅前で見たいところあるから、9時くらいには出ようと思ってた」
と言った。母は、
「そう。またいつでも遊びに来てね」
と、言ってくれた。
食事を終えると、母が、コーヒーを淹れてくれていたので、居間の方で父と飲んだ。
父に、
「ハルくん、また一緒に酒を飲もう」
と言われ、ハルが、
「ぜひ、ご一緒しましょう」
と言った。
2階の部屋を片付けると、もうすぐ9時になるところだった。
居間に行くと、ハルが、父に、
「お父さん、旭川で結婚式を挙げようと思っています。来ていただく事は可能でしょうか?」
と聞いた。私は、聞いていなかった。始めて聞いた。驚いていると父が、
「もちろん、出席させてもらうよ」
と言い、ハルが、
「ありがとうございます。詳細が決まり次第お知らせさせていただきます」
とお辞儀をした。
「それでは、お邪魔しました」
とハルが言い玄関に向かった。私も、
「お邪魔しました」
と言い、実家をあとにした。
地下鉄への道を歩きながら、私は、
「結婚式は聞いてない」
と言った。ハルは、
「ずっと思ってたけど、誰にも言ってない」
と言い、続けて、
「式だけでいいんだ、ゆりのご両親とうちの両親、6人だけで、教会で式を挙げて、その後、食事会しようよ。ゆりのウエディングドレス姿が見たい」
と言った。ハルがそんな事を考えているなんて、全く考えていなかった。
「いいのかな?」
私が言うと、
「いいに決まってるじゃん」
と言ったハルが、とても逞しく思えた。
「ありがとう」
私が言うと、ハルは、
「こちらこそ、ありがとう」
と言って、地下鉄の入り口で、私を抱き締めた。
札幌駅に着くと、4℃を見に行ったが、旭川にもある事を教えてもらい、刻印にも日数がかかるので、購入はしなかった。
昼食を食べ、地下で、ハルのご両親へのお土産を選び、JRで旭川に戻った。
その足で、ハルのご両親に会いに行った。
ハルのご両親に、お土産を渡すと、
「ゆりのご両親にも許してもらえた」
とハルが言った。私は、
「よろしくお願いいたします」
とハルのご両親に頭を下げた。
「ゆりさん、ハルをよろしくお願いします」
と、ハルのお父さんが言ってくれた。
「インフルエンザの時に、お気遣いいただき、本当に感謝しています」
私は、ずっと言えてなかったお礼をやっと言えた。
「親父、結婚式だけは挙げて、ゆりのご両親と食事会するから、覚えておいて」
とハルが言うと、
「おう、わかった」
とハルのお父さんが言った。
「ゆり、送ってくる」
ハルが言ったので、私は、
「お邪魔しました」
と言って、お辞儀した。
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