第10話

月曜日、バスに乗って病院に向かった。

 引っ越したので、前の病院から紹介してもらった、たくさん科がある大きい病院だった。

 幸い、話しやすくて、若い女性の先生だった。

 時々、眠れない事と、無事に働けている事を話して、診察は終わった。

 薬を貰い、家にまっすぐ、帰ろうと思っていたが、なんとなくエルフによって行こうかな?と思った。

 5時だった。

 今日は、路地に黒板の看板が出ていた。

 ドアを開けると、マスターとエプロンをした女の子が、 

「いらっしゃいませ」

 と言った。 

「こんばんは」

 私は、言ってカウンターに座った。 

「バイトの子ですか?」

 女の子の方を見て聞いた。 

「そう、ともみちゃん」 

「こんばんは」

 ともみちゃんが言った。 

「オムライス食べに来ました」

 と私が言うと、

 「了解」とマスターが、言った。 

「あと、オレンジジュースも」 

「はい」

 とともみちゃんが、伝票に書きながら、用意していた。

 後ろのテレビを見ると、"バックトゥザフューチャー"が流れていた。 

「マスター、好きなんですか?」

 とテレビ画面を指差した。 

「うん、名作でしょ?」 

「私も、好き!89点」

 マスターは、え?という顔をしていた。 「私、映画に点数付けるの趣味なんで」 

「そうなんだ、今まで100点は、あった?」 

「まだ、無いです、最高は、LEONの98点かな?」 

「あれも名作だよね、あるよ」

 とカウンターの後ろの棚を指さした。

 全然、気付かなかったが、DVDが結構並んでいた。 

「ハル、来てるよ」

 とマスターが、言った。 

「もしかして、ゆりさんですか?」

 とともみちゃんが、オレンジジュースを出しながら、聞いてきた。 

「うん」 

「へぇ、美人さんですもんね~!」

 とともみちゃんが笑顔で言った。それを聞き付けてか、近藤くんが、 

「ゆりさん!こんばんは~!」 

 と現れた。 

「毎日来てるの?」

 と、私は、聞いた。 

「ほぼ毎日な」

 マスターが、言った。 

「俺、こっち来てもいいですか?」 

「どうぞ」

 私は、リュックをよけた。 

「来週、映画楽しみです」 

「そうだね」 

 近藤くんと話していると、マスターが、

「どうぞ~」

 とオムライスを出してくれた。 

「俺も食べたいな!」

 と近藤くんが、言った。 

「母ちゃんが、用意してるだろ」

 マスターが、言った。 

「いいですよ」 

「ダメだね、ハルには、作らない」 

「えー」と言って、近藤くんは、ふくれていた。 

「なんか、マスターと近藤くんって兄弟みたい」

 私が笑った。 

「仲いいですよね」

 ともみちゃんも言った。 

「そうかなぁ?」

 マスターと近藤くんが、同時に言ったので、みんなで笑った。

 いただきますとマスターに言って、オムライスを食べ始めた。美味しかった。久しぶりに、まともな夕食をとった気がする。 

「何、聴いてるんですか?」

 と近藤くんが、私のリュックからたれていたイヤホンを指差して言った。 

「ん?ワンオク」 

「マジで?俺も聴いてます!」 

「そうなの?通勤の時は、ワンオクかcoldrain聴いてる」 

「へぇ、意外」 

「LIVEも行きたいんだけどね」

 ちょっと余計な事言っちゃったかな?と思った。

「今度来たら、一緒に行きましょう!」

 と近藤くんは言い、やっぱり、と思った。 「行った事あるの?」 

「まだなんですよ!絶対チケット取りますから!」

 近藤くんは、かなり張り切っていた。

「最近なんだよね、聴くようになったの。YouTubeで見付けて」

 私が言った。 

「そうなんですか?coldrainは、聴いた事無いから、聴いてみます」

 近藤くんが、言った。 

「聴いてみる?」

 と私が携帯音楽プレイヤーを持って言うと、 

「今ですか?」 

「どうぞ?」

 私は、coldrainを選曲してイヤホンを貸した。 

「結構、激しいけど良いですね」

 近藤くんが、coldrainを聴いていた。 

「CD貸そうか?」

 私は、言った。 

「え、良いんですか?」 

「明日、持ってくるね」 

「はい!」

 と近藤くんは、可愛い笑顔で言った。憎めない人だなと思っていた。 

「他の曲も、見ていいですか?」

 近藤くんが、私の携帯音楽プレイヤーを持って言った。 

「うん、いいよ」

 と私は、言った。 

「いっぱい入ってますね!RADも聴くんだ!なんか、若い」

 近藤くんが、私の携帯音楽プレイヤーをいじりながら言った。 

「寝る時は、米津玄師クン」 

「へぇ~、幅広く聴いてますね」

 私は、ごちそうさまでしたと言って、オレンジジュースを飲み干した。 

「もう、帰っちゃうんですか?」

 近藤くんが、イヤホンを外して言った。 

「明日も仕事だしね」

 と、近藤くんから携帯音楽プレイヤーを返してもらいながら言った。 

「俺、送りますよ」 

「大丈夫だよ」

 私が言うと、 

「送ってもらったら?」

 とマスターが、言った。私は、小さく頷いた。

 エルフを出て、近藤くんと二人で歩いた。 「なんか、ごめんね」

 と近藤くんに言った。 

「謝る事無いですよ」 

「近藤くん、ご飯まだでしょ?」 

「大丈夫ですよ、うち、食べるの遅いから」 「そうなんだ」 

「歩くの速いですか?」 

「ううん、いつもこれくらい」

「音楽の趣味も合うんだなぁ~」 

 近藤くんは、呟いた。 

「私、ワンオク、始めて観た時、UKのバンドだと思った」 

「発音良いですよね」 

「うん。歌詞、日本語になった時ビックリした」 

「今年、日本のツアー終わっちゃったから、来年かな?」 

「そうだね」 

「RADWIMPSは?」 

「行ってみたい」 

「やっぱ、LIVE良いですよね」 

「うん。Zeppとかだったらいいな」 

「ワンオクは、もうZeppきっと来ないですね」 

「次、ドームかな?」 

「かもしれないですね」

 私の部屋が見えてきた。 

「あの、緑色のタイルみたいなとこ」 

 私は、指を差して言った。 

「もうすぐですね」 

「うん」 

「職場、歩いて通ってるんですか?」 

「うん」 

「結構、いい運動になりますね」 

「自転車にしようかと思ってるところ」 

「その方が安全かも」 

「どうして?」 

「夜道、危ないから」 

「大丈夫だよ!」 

「今度は一緒に、自転車買いに行きましょう!」

 と話してるうちに、アパートに着いた。 

「送ってくれて、ありがとう」 

「お役にたてて嬉しいです」

 近藤くんは、真面目な顔で言った。 

「あ、そうだ!coldrainのCD持ってく?」 

「良いんですか?」 

「うん、うち2階」

と言いながら階段を上った。

 近藤くんは、無言で付いてきた。私は、部屋の鍵を開けて、近藤くんを玄関に入れると、 

「ちょっと待ってて」

 と言った。

 CDラックから、coldrainを選んで、手近にあった、紙袋に入れた。 

「返却はいつでもいいです。延滞金無し!」

 と言って、玄関にいる、近藤くんに紙袋を渡した。近藤くんは、受け取るやいなや、おじぎをした、と思ったらおでこを私のおでこにくっ付けてきた。お互いの鼻が少し触れた。私は、ビックリして、1歩後ろに下がった。

「ゆりさん、隙ありすぎ!簡単に男、部屋に入れちゃダメですよ!」

 と近藤くんが、真剣な顔で言った。 

「ごめんなさい」

 私は、なんだか謝っていた。 

「俺も、隙を狙ってましたけど」

 と、頭をかきながら言った。 

「分かった。もう近藤くんには、送ってもらいません!」

 と、真面目に言った。 

「冗談ですよ!ごめんなさい、もうしません」

 と頭を下げた。私は、1歩下がった。 

「わかった」 

「ごめんなさい」 

 また近藤くんは言って、 

「じゃあ、CDお借りします!大人しく帰ります」

 と言って、玄関を出た。 

「じゃあまた」

 と言って、私は、手を振った。

 近藤くんも、手を振った。

 近藤くんが、帰ると、そのままベッドに横たわった。隙だらけだ、私。と反省した。

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