第6話
──三日後
パーティー会場を見上げながら、ディアンヌは呆然としていた。
街の宿で着替えてきたのだが、やはり髪も下ろすだけ。
メイクもほとんどしておらず、アクセサリーもないからか完全にドレスも着られている状態だった。
何より履き慣れないハイヒールで歩きづらい。
ディアンヌはよたよたと階段を上がっていくのだが、注目を集めていた。
(場違いなのはわかっているけど、家族のためにがんばらないと……!)
なんとか会場に辿り着いたものの、何をすればいいかわからずに緊張していた。
社交界デビューも済ませておらず、パーティーにも出席したことないため、やることもわからない。
今になって後悔が押し寄せていた。
コソコソと何かを話されてはいるが、いい意味ではないことだけはわかる。
仕方なく壁際に移動して、周囲の様子を眺めていた。
(どう見たって、場違いよね……)
親しげに話す人たち、笑い声が遠くから聞こえる。
結婚相手を探しにきたはずなのに、今のところ何もできないままだ。
(みんなの前であんなことを言ったけど、わたしはこのパーティーで結婚相手をみつけることができるのかしら……)
心細さや緊張、不安があり思考がマイナスに傾いていく。
そんな自分を叱咤するために首を横に振る。
ディアンヌがどうにかこの状況を上げようと、一歩踏み出そうとした時だった。
視界がグルリと一回転する。
ゴチンと、頭に激しい痛みと共に重たい音が聞こえた。
どうやらハイヒールでドレスの裾を踏んでしまい、倒れた拍子に頭をぶつけてしまったようだ。
クラリと目の前が歪んでいく。
そのままディアンヌは意識を手放した。
* * *
真っ暗な景色の中、コンクリートでできた建物が聳え立っている。
行き交う人や車、画面には映像が流れていく。
(ここは日本で……あれはコンビニに自動車、ビルに信号機?)
知らない景色のはずなのに、スラスラと名前が出てくる。
そのことを不思議に思っていると、自分が日本に住んでいた記憶が蘇ってくる。
(そうだわ。わたしはアン、井出アンだった……!)
フルーツが大好きでパティシエを目指していた。
専門学校の帰り道、新作のスイーツを大量に購入した。
複数のバイクの音が聞こえて目の前が明るくなった瞬間……。
井出アンとしての人生が終わってしまったのだ。
どうやら頭をぶつけたことで、前世の記憶を思い出したようだ。
ディアンヌと同じ五人姉弟の長女で、貧乏だったのも同じ。
アンとディアンヌはまったく同じ境遇だった。
高校三年間、ずっとアルバイトをして貯めたお金で専門学校に通えたのだ。
夢半ばでバイクに轢かれて生を終えてしまったことを思い出す。
「──そんなのあんまりだわ!」
ディアンヌはそう叫びながら勢いよく体を起こす。
アンとしての記憶を思い出した反動なのか、頭がズキズキと痛んだ。
男性の医師がディアンヌに気づいたのか心配そうに顔を出す。
どうやら頭をぶつけて意識を失ったディアンヌは医務室まで運ばれたようだ。
ディアンヌは濃い紫色の裾が長くタイトなドレスを引き上げながら起き上がる。
(急がないと……! パーティーが終わってしまうわ)
追い詰められた状況ではあるが、どんな時も粘り強く乗り越えてきた。
諦めるにはまだ早い。
ディアンヌは医師に大丈夫だと断りを入れてお礼を言ってから、身なりを直すために鏡を探す。
壁にかけられている鏡を見つけて、ハイヒールを履いた足を進めていく。
思い出すのはシャーリーの心ない態度だ。
(こんな歩きにくい靴や似合わないドレスを貸すなんて嫌がらせよ……!)
アンとの記憶が混ざったからわかるが、シャーリーは明らかに悪意を持ってディアンヌを馬鹿にしていた。
(ディアンヌはいい子すぎたのよ。シャーリーはずっとディアンヌのことを下に見ていたわ!)
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