第27話
次の日、リュドヴィックに屋敷の中を案内すると提案を受けた。
怪我をしていたため、治ってからゆっくりと回らせてもらうと遠慮していたディアンヌ。
「なら、私が抱えながら回ろう。それならいいか?」
「…………え?」
結局、リュドヴィックの申し出を断りきれずに抱えられながら案内されてしまう。
よくわからないが、リュドヴィックの距離感はたびたびおかしいことだけはわかる。
メリーティー男爵家の屋敷よりもずっと広い部屋を見て、感動していた。
契約結婚であることは一部の人にしかこの事実を伝えなかった。
混乱を避けるためと、メリーティー男爵家とベルトルテ公爵家の名誉を守るためだ。
知っているのは執事とエヴァ、侍女長のマリアくらいになるそうだ。
「この部屋が私たちの寝室になる。私はほとんど使わないだろう。ディアンヌが好きに使うといい」
「わぁ……!」
シンプルではあるが広い部屋を見回していた。
リュドヴィックはディアンヌを気遣い、立派な椅子に降ろしてくれた。
彼は寝室にほとんどおらず、書斎か城で過ごすことが多いらしい。
仮眠はソファでとっているそうで、その隈の原因になっているのでは……と思ったが口をつぐむ。
遠慮もあるが、リュドヴィックのことをまだ知らなすぎるからだ。
ここでディアンヌはあることが気になってしまう。
「リュドヴィック様はお休みにならないのですか?」
「……あまりそのような時間はない」
常に疲れた顔をしているリュドヴィックは働き詰めなのだろうと思った。
ふと、蘇るのは前世の記憶。
家族のために働いてばかりいた父は、過労で亡くなってしまった。
その時の父とリュドヴィックが重なって見えてしまう。
「お仕事は大変だと思いますが、無理はなさらないでください」
「……!」
リュドヴィックは目を見開きながらディアンヌを見ていた。
そんな時、遠くからディアンヌを呼ぶ声が聞こえた。
「──ディアンヌッ!」
突撃してきたピーターが、腹部に激突する前にディアンヌは彼を抱えあげる。
立派な椅子が後ろに倒れなくてよかったと思った。
ピーターは嬉しそうにしている。
「フフッ、ピーター様、捕まえた!」
ディアンヌはピーターにピタリとくっついて頬を寄せた。
しかしピーターは頬を膨らませて「〝ピーター〟がいい!」と怒っている。
どうやらピーター様と呼ぶのは気に入らないようだ。
チラリとリュドヴィックを確認すると、彼はゆっくりと頷いた。
「ディアンヌ、今日からずっと一緒だって聞いたけど本当なの?」
「えぇ、そうよ。ピーターと一緒にいるわ」
「ディアンヌがここにいてくれて嬉しい……! 神様に頼んだ。ディアンヌと一緒にいたいって。願いが叶ったんだ」
「天使……ッ!」
ピーターの言葉にキュンとときめいたディアンヌは彼を思いきり抱きしめる。
「ディアンヌ、苦しいよ……」
そう言いつつ、彼は嬉しそうだ。
ピーターのぷにぷにした頬に擦り寄って癒されていた。
すると小さな手がディアンヌの頬を掴む。
「ディアンヌはリュドと結婚するんでしょう?」
「え、えぇ……! これからよろしくね」
「そっか! へへ、嬉しいな」
ピーターはディアンヌの返事に満面の笑みを浮かべている。
ディアンヌはリュドヴィックと目を合わせて頷く。
彼と出会ったのはつい先日なので、結婚した実感があまり湧かないというのが本音だった。
しかしピーターにとってはリュドヴィックが父親でディアンヌは母親代わりになるのだろう。
ディアンヌはピーターの頭を撫でながら温かさに擦り寄っていた。
ピーターに遊んでと頼まれたが、足を怪我していることを伝えると「痛い?」と心配そうにしている。
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