第76話
リュドヴィックの言葉にシャーリーは大きく目を見開いたまま動けないでいる。
ディアンヌのそばには涙目のピーターもやってきて、彼女を責め立てる。
「ディアンヌはボクを助けてくれた! それなのにお前はディアンヌに乱暴したんだっ」
「……ピーター」
「悪者め!」
ディアンヌを必死に守るように叫ぶピーターを後ろから抱きしめた。
それにはシャーリーも唇を噛んで何も言えないようだ。
そして騒ぎを聞きつけたのか、騎士たちがリュドヴィックのもとにやってくる。
彼の指示でシャーリーは拘束されて連れて行かれてしまった。
目撃者は十分すぎるほどだろう。
彼女は最後までディアンヌを睨みつけていた。
まさかシャーリーがこの場でここまで大胆に動くとは思いもしなかった。
何がシャーリーにこうさせるのか、ディアンヌにはわからない。
けれどシャーリーの中ではディアンヌを見下す立場にいたい。
上に立たなければ気が済まないのだろうと思った。
ディアンヌに執着しなければ、幸せに生きられる道もあったはずだ。
ディアンヌがテラスから会場に戻ると、カシス伯爵と伯爵夫人がシャーリーを必死に追いかけているのが見えた。
ピーターにお礼を告げつつも、今更になって恐怖が襲ってきてしまう。
シャーリーと二人きりになる選択を後悔していた。
(リュドヴィック様が、すぐに止めてくださったから助かったけど……)
リュドヴィックはピーターとディアンヌを包み込むように抱きしめてくれた。
ディアンヌも抱きしめ返すように力を込めた。
* * *
パーティーは無事に終わり、ディアンヌもベルトルテ公爵夫人として、きちんと役割を果たすことができた。
シャーリーはディアンヌへの暴言の数々や殺人未遂。
他の令嬢たちへの嫌がらせに加えて、彼女の進言でメリーティー男爵家の果実を盗賊たちに盗ませたことも白状した。
それだけでもディアンヌに対する執着が窺える。
一気に露呈したことで彼女の評価とカシス伯爵家の名誉は地に落ちてしまった。
シャーリーは島流しになったそうだ。
リュドヴィックはその対応は生温いと抗議したようだ。
それにカシス伯爵も、鉱山の宝石を加工する際に安価な偽物とすり替えて売り捌いていたそうだ。
中には王家に献上していたものの中にも偽物を混ぜていたことが判明した。
本物を加工することは手間も時間もかかるため、王都で多くの宝石を売り捌けるよう、安価なガラスに色をつけていたらしい。
そのことで国中の貴族たちの怒りを買い、王家からも見放されることとなる。
カシス伯爵は身分を剥奪されて、その領地はベルトルテ公爵家とメリーティー男爵家、王家で分けられることが決まった。
(もう彼女と会うことは二度とないのね)
奇しくもシャーリーの願いが叶ったといえるだろう。
──パーティーが終わって二週間が経とうとしていた。
ロウナリー国王と王妃の間には第一王子が生まれたことで、今、王国はお祝いムードに包まれている。
そんな中、ディアンヌはメリーティー男爵領で元気に走り回る三つ子とピーターを見守っていた。
リュドヴィックは忙しい中でも、家族のために定期的に休暇をとることにしたそうだ。
今までが働きすぎだったらしいのだが、ロウナリー国王もリュドヴィックがそうすることを望んでいたそうだ。
そのためパーティーでがんばったご褒美として、メリーティー男爵家で羽を伸ばしている。
久しぶりに誰の目も気にすることなく、ディアンヌは美味しい空気を吸い込んでいた。
少し離れた場所では若い木ではあるが、艶々と輝く果実が実っているのが見えた。
(今度、フルーツを使ってパフェやケーキを作りましょう!)
ピーターの喜ぶ顔が目に浮かぶ。
リュドヴィックはディアンヌの隣でうとうとと眠たそうにしている。
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