第7話
もうシャーリーには関わらない方がいいだろう。
前にある鏡にはストロベリーブラウンの髪と薄いピンク色の瞳が映っている。
日本人の黒目と黒髪ではないことで違和感を覚える。
今は化粧をしていないが、目鼻立ちははっきりしていてそばかすは可愛らしい。
ディアンヌはそのままでも十分、可愛らしい。
ドレスや髪型さえちゃんと選べば、誰かに見初めてもらえるくらい魅力的だと思う。
今は真逆の雰囲気のドレスや高すぎるヒールのせいで、本来のよさも消されてしまったが。
前世の記憶が戻ったばかりだからか、アン視点で物事を見てしまう。
ディアンヌは今すぐにパーティー会場に戻らなければと思っていた。
パーティーが始まった時には日が沈んで空がオレンジ色だったのに、今は真っ暗で空には月や星が見えたからだ。
時間がない、それだけは自然と理解できた。
簡単に髪を整えて、ドレスの裾を持ち上げて部屋を出る。
すると、目の前に小さな男の子が心細そうに立っていた。
心細そうに服の裾を握っている少年は、ホワイトシルバーの髪にライトブルーの潤んだ瞳をこちらに向けている。
(ま、まさかこの世界には天使がいるの……?)
そう思うのも無理はないほどに可愛らしい少年だ。
しかし今は家族の運命がかかっている。
このままでは何の成果もないままメリーティ男爵領に帰らなければならなくなってしまう。
ディアンヌはパーティー会場へ足を進めようと一歩踏み出す。
けれど泣きそうになっている少年が気になって仕方ない。
何より弟たちと姿が重なってしまう。
(……この子を放ってパーティーに戻れないわ!)
ディアンヌは少年を怖がらせないようにと、ハイヒールを脱いで視線を合わせるように屈む。
「君、どうしたの?」
「……」
「もしかして迷子かな?」
「……」
少年はディアンヌの声に何も返事をしない。
(ライ、ルイ、レイと同じ歳くらいかしら?)
答えてくれるのを待っていたが、少年の目からはポロリと涙がこぼれ落ちる。
困惑したディアンヌは額に触れると、先ほどぶつかったところが大きなコブになっていた。
どうにかして不安を取り除きたいと思い、ディアンヌは少年に声をかける。
「あのね、さっきこのドレスの裾を踏んじゃって頭ぶつけて転んじゃったの。見て見て! 大きなたんこぶできているでしょう?」
ディアンヌは前髪を持ち上げて見せる。
どれだけ強くぶつけたのだろうか。
額がボコンと大きく膨らんでいた。
すると少年はディアンヌのたんこぶを見つめながら目を丸くしている。
「……そこ、痛いの?」
少年が口を開いて、ディアンヌに問いかける。
やっと少年が話してくれたことに安堵していた。
「ふふっ、もう大丈夫だよ!」
「……そっか」
少し照れながらそう言った少年は、天使そのものだ。
あまりの可愛さに、にやけてしまいそうなのを堪えていた。
少しはディアンヌに対する警戒を解いてくれたのかもしれない。
「わたしはディアンヌ。あなたの名前を教えてくれる?」
「……ピーター」
しかし名前のことを問いかけた途端、ピーターの顔色は暗くなってしまう。
話題を変えようとディアンヌは誰を探しているのか、さりげなく問いかける。
「ピーターは誰かを待っているの?」
「うん……リュドを探しているんだ」
「……リュド?」
ディアンヌが首を傾けながら考えていると、再びピーターの目に涙が浮かぶ。
「ピーター、大丈夫?」
ディアンヌは無意識に腕を広げてしまう。
しかし、ピーターは何のことかわからないようだ。
とりあえずいつもの癖で抱きしめようと思ったが、逆に警戒されてしまったようだ。
ディアンヌとアンの記憶が混ざり合ったばかりだからか、馴れ馴れしい態度になってしまう。
反省しつつも腕を下げると、ピーターが控えめにピタリと体を寄せてくるではないか。
上目遣いでこちらの様子を確認してくるピーターの可愛さに、ディアンヌは心臓を撃ち抜かれていた。
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