第11話
期待をして送りだしてくれた家族を裏切るようになってしまうのは申し訳ないが、仕方ないだろう。
「恨まないのか? その友人のことを」
リュドヴィックの問いかけにディアンヌは少しだけ考えた後に、小さく首を横に振る。
「よく調べもせずにいたわたしも悪いので……」
「そうか」
「家族のためになんとかしてがんばりたいのです。弟には夢を追いかけて王立学園に通ってほしい。弟たちにもお腹いっぱいご飯を食べさせたかった……」
「……!」
ディアンヌはグッと手のひらを握り込む。
今回の件で貴族の令嬢として嫁ぐことはできないとわかってしまった。
けれど家族のためにまだまだできることがあるはずだ。
ディアンヌはこれからどうすべきか考えを巡らせていく。
「何もしないまま没落するのは嫌ですから、今からやれることをやろうと思います……!」
ディアンヌはここで諦めるつもりはなかった。
節約すれば、どうにかあと二日ほど王都に滞在できるはずだ。
(その間、働き口を探しましょう! 最初からそうしていればよかったのよ)
皮肉にもシャーリーに〝わたくしの屋敷で雇ってあげてもいいわよ?〟と言われて気がついたのだ。
今から他のパーティーに出るよりも、どこかで侍女として働き、家族を養えないかと思ったのだ。
ここまで追い詰められたら、もうどうにでもなれである。
失礼なことを言っていることは百も承知だ。
(リュドヴィック様は高貴な方みたいだし、紹介してもらえそう。これも何かの縁だもの……! それに今はなりふり構っていられないっ)
覚悟を決めてリュドヴィックに誰か紹介してもらおうと声を上げる。
「図々しいのはわかっています。リュドヴィック様、わたしにどこか働き口を紹介してもらえないでしょうか?」
「君は……結婚相手を探していたのではないのか?」
「はい! ですが結婚相手を探すのは難しそうだとわかったので、家族のために今のわたしができることをやりたいんです」
ディアンヌはリュドヴィックにジリジリと迫りながら、訴えかけるような視線を送る。
この際、結婚相手を見繕うのは難しいとわかってしまった。
社交界に対して無知で何も知らなければこうなってしまう。
物語のように王子様に見初められることなどありはしない。
自分で欲しいものに手を伸ばして、掴み取らなければならないのだ。
(リュドヴィック様は親切な方だから、なるべく賃金のいい働き口を……!)
ディアンヌのあまりの勢いに、リュドヴィックは一歩後ろに下がる。
しかしディアンヌも引き下がることはできはしない。
「リュドヴィック様、お願いしますっ!」
「ちょっと待て……!」
そしてディアンヌも一歩前に進んでいくと、足の痛みで体勢を崩してしまう。
「……っ!?」
傾いた体を支えるようにリュドヴィックの腕が伸びる。
彼の逞しい腕に支えられながら、ディアンヌは動きを止めた。
上目遣いで彼を見つめながら、再び立ち上がる。
申し訳なさから頭を下げて謝罪しようとした時だった。
「リュド、リュド……!」
聞き覚えのある可愛らしい声にディアンヌは顔を上げた。
ふわふわしたホワイトシルバーの髪と、大きく見開かれるライトブルーの瞳。
先ほど、迷子だったピーターの姿がそこにはあった。
「リュド、やっと見つけたっ……!」
ピーターは安心したように微笑むと、リュドヴィックの腹部に突撃するように抱きついた。
その後に慌てた様子でエヴァがやってくる。
どうやらピーターを追いかけていたのか、荒く呼吸を繰り返していた。
「ピーター……エヴァと待っていろと言ったろう?」
「だって寂しかったんだもん。それにリュドに会いたかったから……」
涙目になるピーターにリュドヴィックは重たいため息を吐いた。
しかし、リュドヴィックの氷のような表情にピーターはビクリと肩を震わせて怯えるように身を縮ませてしまう。
ディアンヌは胸が痛くなり、ギュッとリュドヴィックに抱きついているピーターの肩をつつく。
するとピーターは後ろに視線を送る。
ディアンヌに気がついたのだろう。
濡れた目を見開きながら、ディアンヌに抱きついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます