第64話



ブンブンと首を横に振りながら戸惑うディアンヌを夫人たちが温かく見守っている。

もちろんピーターやララたちを守りたい気持ちもあるが、ディアンヌはリュドヴィックと一緒に過ごすうちに色々なことを知った。


冷たくて言葉が足りない時もあるが、ディアンヌの気持ちを優先してくるし、忙しいはずなのにメリーティー男爵家に付き添ってくれる。

寝顔がとても可愛らしいことも、意外とよく笑うこともこうして一緒に過ごしてから知ったのだ。

わからないながらもピーターに誠実に向き合おうとしていた。

知れば知るほどにリュドヴィックのことを好きになる。


(わたし……いつの間にリュドヴィック様のことを好きになっていたんだろ)


一度気づいてしまえば、もう後戻りはできない。

リュドヴィックへの気持ちはディアンヌの知らない間に大きく膨らんでいたようだ。



「リュドヴィック様は、わたしのことをどう思っているのでしょうか……」



リュドヴィックは今、二十六歳だ。

彼から見るとディアンヌはかなり子どもに見えるだろう。



「フフッ、あなたはそのままでいいのよ」


「そうそう、気にすることないわ」


「……ですが」



自信がないディアンヌが顔を伏せていると、屋敷の執事がお茶会を主催してくれた公爵夫人に耳打ちする。

「通してちょうだい」と、いう公爵夫人の言葉に首を傾げる。

暫くして現れたのは……。



「ディアンヌを迎えに来たのだが……」



そこにはリュドヴィックの姿があった。

ディアンヌを迎えに来てくれたと気づいてハッとする。

それよりも彼は仕事で忙しいはずなのに、ここに来てくれたことが意外だった。



「リュドヴィック様、今日はお仕事が……!」


「ディアンヌが心配になってしまって……それより顔が赤いようだが大丈夫か?」


「~~っ!」


「最近、夜遅くまで無理をしていただろう? ピーターやララ、マリアも心配していた」



リュドヴィックの大きな手のひらがディアンヌの頬に触れる。

先ほど、リュドヴィックのことを話していたせいで彼を意識してしまう。


(リュドヴィック様の大きな手のひらが……! 心配してくださっているだけなのになんだか恥ずかしい)


ディアンヌはリュドヴィックに「大丈夫です!」と、言いつつも慌てて距離をとる。

どうやら最近、無理ばかりしているせいで心配をかけてしまったようだ。


ディアンヌは横で微笑んでいる夫人たちに気づく。

居た堪れなくなり、お礼を言ってから深々と頭を下げた。

しかしリュドヴィックの視線はディアンヌにある。


(ただでさえリュドヴィック様はかっこいいのに、意識してしまうと……!)


いつものように視線を合わすこともできずに戸惑いを感じていた。



「ディアンヌ、本当に大丈夫か? 帰ったらすぐに医師を手配しよう」


「い、いえ! わたしは大丈夫ですから。リュドヴィック様、お気遣いありがとうございます」


「何かあったらすぐに言ってくれ」



リュドヴィックの言葉にディアンヌは何度も頷いていた。

それから彼は夫人たちと一言二言会話を交わしてからディアンヌの元へと戻ってくる。

完璧なエスコートを受けながら、ディアンヌは夫人たちに挨拶をして背を向ける。

リュドヴィックの安心したような笑みに、ディアンヌの胸はドキドキと高鳴りっぱなしだった。



「……ベルトルテ公爵は彼女を愛しているのね。彼のディアンヌを見つめる瞳を見まして?」


「あんなにわかりやすいのに気づかないものなのねぇ」


「あのベルトルテ公爵がここまでになるなんて……すごいわ」




そんな二人の様子を見ていた夫人たちがこっそりと話をしていることにも気づかずに足を進める。

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