第63話
それに加えて宝石やドレスのことが書き綴られている。
カシス伯爵家で採れる鉱石から作ったアクセサリーをプレゼントをしたいと書かれていた。
(シャーリーは、わたしが宝石を欲しがると思っているの?)
ディアンヌはモヤモヤとした気持ちを抱えたまま眉を寄せた。
カシス伯爵家がその鉱石をアクセサリーに加工したお金で成り上がったことは知っているが、ディアンヌはまったく興味がない。
こんなことでディアンヌがお茶会にホイホイと顔を出すはずないことは少し考えればわかるだろうに。
ディアンヌはカシス色の封筒に手紙をしまう。
「ディアンヌ様、どうかされましたか?」
「お茶会のお誘いよ。いつものように断りの手紙を書くわ」
「かしこまりました」
ララはすぐに便箋とペンを用意してくれた。
次の講師が来るまでに丁寧に返事を返していく。
それも大切な仕事だと教わった。
こんな時に学園で真面目に授業を受けていたことが役に立つというものだ。
結局、ディアンヌがパーティー前の練習として参加したのはリュドヴィックが信頼しているという公爵家の夫人たちが招待してくれたお茶会だった。
もちろんベテランのご夫人ばかりである。
粗相をしないようにと、緊張していたディアンヌを気遣ってくれる優しい人たちばかり。
講師たちに『見て盗みなさい』と言われた通り、ディアンヌは夫人たちの自信に満ち溢れる態度や美貌を見て学んでいた。
夫人たちも学ぼうとするディアンヌのまっすぐで素直な態度を気に入ってくれたのか、役立つアドバイスをたくさんもらうことができた。
元男爵令嬢だから、と馬鹿にするような言葉は一言も出てこない。
身近にいたシャーリーやカトリーヌとは違い、内面から滲み出る輝きを感じたのだった。
本物に触れたことでディアンヌのやる気はかなり上がったように思う。
「わたしも早く皆様のようになりたいです!」
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいわ」
「ふふっ、まっすぐで素直で可愛らしいわ。意外だったけど……さすがベルトルテ公爵ね」
「困ったことがあったら、わたくしたちに頼っていいのよ?」
「はい! リュドヴィック様とピーターのために、わたしができることはなんでもやりたいと思っています」
契約結婚ということは隠さなければいけないが、リュドヴィックへ気持ちは膨らむばかり。
ディアンヌが気合い十分でそう言うと、夫人たちは少し驚いていたもののすぐに微笑んでいる。
「……まぁまぁ!」
「今回のパーティーでは、皆様のように振る舞えるように努力はしているんですが……なかなかうまくいかなくて」
ディアンヌが短い期間に懸命に努力してきたつもりだったが、こうして夫人たちを見てしまうと、まだまだ追いつけないと理解できる。
ディアンヌが困ったように笑っていると、夫人たちは励ますように肩に手を置いてくれた。
「こんなにも愛されて、ベルトルテ公爵も幸せね」
「…………え?」
「ベルトルテ公爵は絶対に結婚しないと思っていたのよ。でも彼があなたを選んだということは、ちゃんと理由があったのね」
「理由、ですか……?」
「わたくしも最近思っていたの。あなたと結婚してからは、表情が柔らかくなられたから」
「そうよねぇ、いつも優しい表情をしているわ」
夫人たちの言葉を聞いて、ディアンヌの顔が真っ赤になっていく。
この結婚は互いの利益のため、最初は本当にそう思っていた。
ディアンヌはメリーティー男爵家を救うためにリュドヴィックと結婚したからだ。
リュドヴィックはピーターのためにディアンヌと結婚したはずだった。
だけど今、ディアンヌは家族のためではなくリュドヴィックのために動いている。
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