第66話

「君と本当の夫婦になりたいと思っている」


「……本当の夫婦、ですか?」



ディアンヌはリュドヴィックを見て首を傾げた。

今も結婚して夫婦ではあるのに、彼がこのような言い方をする理由がわからなかった。

ディアンヌがポカンと口を開いていると、リュドヴィックは頬を掻いて戸惑っているようにも見える。

珍しく言葉を濁す彼の頬がほんのりと赤く染まっていくのがわかった。



「つまりは、一人の男として……君に惹かれているんだ」


「……!」


「もう一度、やり直させてはくれないだろうか?」



今度はリュドヴィックの言葉でディアンヌの頬が真っ赤になっていく。

彼がディアンヌに気持ちを寄せてくれているのだと理解できたからだ。


(リュドヴィック様がわたしを好き……? 信じられないけど、とても嬉しい)


ディアンヌは先ほどリュドヴィックへの恋心を自覚したばかりだ。

だからこそリュドヴィックもそう思っていてくれたのかと思うと驚きもある。

ディアンヌは自らを落ち着かせるように、大きく息を吸ってから吐き出した。


(わたしもリュドヴィック様にちゃんと気持ちを伝えたい……!)


ガタガタと馬車が揺れていて、その音が大きく響いていた。

ディアンヌは胸を押さえながら口を開く。



「わ、わたしもリュドヴィック様のことを意識してしまって……変な態度をとってすみません!」


「……!」


「ですが、リュドヴィック様の優しくて不器用なところも、頭がよくてかっこいいところも、可愛らしい寝顔も……全部大好きですから!」


「ディアンヌ……」


「リュドヴィック様と出会えて本当によかったと思っています」



ディアンヌが笑顔でそう言うと、リュドヴィックの顔が間近に迫っていた。

その瞬間、唇に柔らかい感触がして彼のシルバーグレーの髪が離れていく。

まるでいたずらが成功した少年のように笑うリュドヴィックを見て、ディアンヌは呆然としていた。


リュドヴィックにキスされたのだと気づいた瞬間に、ディアンヌは真っ赤になった。

口をパクパク動かすディアンヌとは違い、リュドヴィックは余裕の表情だ。

前世の記憶含めて、男性経験がないディアンヌには刺激が強すぎる出来事である。



「これ以上はパーティーの後まで我慢しよう」


「なっ……!」


「ディアンヌ、君を愛している」



思いが通じ合った途端に、急に積極的になるリュドヴィック。

屋敷に着くまで翻弄されっぱなしだったディアンヌは、フラフラと馬車を降りる。

ディアンヌをエスコートしながらも、頬や手にリュドヴィックの唇が触れた。

ディアンヌは肩を揺らしつつも、戸惑っていた。



「急にこんなことをされたら驚きますっ!」


「すまない。だが、もう我慢しなくていいと思うと止まらなくなってしまうな」


「~~っ!?」



口では謝りつつも楽しそうなリュドヴィックの後に続いて、ディアンヌは赤くなった頬を押さえながら屋敷に入る。

リュドヴィックはディアンヌの手の甲にキスをして、甘い表情のまま「仕事に戻る」と言って去っていく。

頭を撫でるのも忘れない。

放心状態のディアンヌを出迎えにきたララとマリアが驚きつつも、そばにやってくる。



「な、なにがあったのですか?」


「あんな表情をするリュドヴィック様は、初めて見ましたわ……!」



興奮気味のララとマリアは放心状態のディアンヌに問いかける。

だが、ディアンヌの方がリュドヴィックに何があったのか説明してほしいくらいだ。


ララとマリアと部屋に戻り、迎えに来てくれたことや馬車の中であったことを説明する。

すると二人はキャーと叫び、興奮しながらもディアンヌの話を聞いていた。

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