第33話
優しい言葉をかけてくれたリュドヴィックを見上げた。
しかし、ディアンヌは今まで泣きすぎて目元が真っ赤になり、鼻水や涙で顔がひどいことになっていることに気がついて慌てて顔を伏せる。
するとピーターもリュドヴィックの元にやってきた。
二人で先ほどまで号泣していていたため、目が真っ赤になっている。
「おかえり、リュド」
リュドヴィックは静かにピーターの髪を撫でた。
そんなタイミングでおかわりのパンとスープが届く。
ピーターは席に着いて、パンとスープをガツガツと食べていく。
今まで何も食べなかったことが嘘のようだ。
その様子をリュドヴィックは見つめた後に信じられない言葉を口にする。
「私も一緒にいいだろうか?」
「へ……?」
「もしかしてリュドも一緒に食べるの?」
「ああ、同じものを用意してくれ」
そう言うとリュドヴィックはディアンヌの腕を引いて席に座らせると、侍従が椅子を引いて腰掛ける。
そして同じようにトレイにスープやパン、チーズが置かれた。
(リュドヴィック様にわたしが作ったものを食べさせるの!?)
ディアンヌは戸惑っていたが、うまく言葉が出てこない。
アワアワとその場を右往左往していた。
「えっ、その……!」
「ピーター、いつもよりたくさん食べているようだな」
「全部、ディアンヌが作ってくれたんだよ! お母さんがよく作ってくれた味と同じなんだ。とても美味しいんだ」
「……そうか」
リュドヴィックはスプーンを持ち、スープを口に運ぶ。
そんな姿もすべて上品に見えるのが不思議なところだ。
ディアンヌはまさか自分の作った料理をリュドヴィックが食べるとは思わずに緊張していた。
その隣ではピーターが機嫌よくパンとチーズを食べている。
「ん……」
「ね? とっても美味しいでしょう?」
「そうだな。優しい味がする」
ピーターの問いかけに、リュドヴィックは優しい笑みを浮かべている。
(リュドヴィック様って、こんな風に笑うのね)
彼の笑顔にディアンヌの心臓は音を立てたが、緊張しているということにした。
三人で囲んで食べる食事はなんだか不思議な雰囲気で温かい。
(……なんだか本当の家族みたい)
食事を終えてソファに腰掛けながら紅茶を飲んでいると、久しぶりにお腹がいっぱいになったことと泣き疲れたことで、ピーターは眠くなってしまったようだ。
ディアンヌが少し眠ったらと言うと彼は素直に頷いて部屋に向かった。
扉から出る前に、ピーターは目を擦りつつ振り返る。
「ディアンヌ……今日の料理、また作ってくれる?」
「えぇ、また作るわ」
「よかった」
エヴァはピーターを部屋に送り届けて、帰っていく。
どうやら毎晩魘されて十分な睡眠がとれていないらしい。
そしてまたピーターの様子を見に行ってしまう。
(……大丈夫かしら)
今回、ピーターの本音を垣間見たような気がした。
先ほどのピーターの言葉を思い出して、ディアンヌは再び涙が溢れ出しそうになるが耐えるように鼻を啜る。
見兼ねたリュドヴィックはディアンヌの隣に腰掛けてハンカチを差し出してくれた。
「ありがとう、ございます。ぐすっ……」
「…………すまない」
リュドヴィックは額を押さえている。
何に対して謝っているのかまではディアンヌにはわからないが、彼もピーターの姿を見て何か思うところがあるのかもしれない。
ディアンヌが落ち着いた頃、シェフたちもピーターがお腹いっぱい食べたことに衝撃を受けたようで、ディアンヌの周りに駆け寄ってくる。
今、作ったレシピを教えて欲しいとのことだった。
ディアンヌは手の込んだ料理よりも、暫くは家庭的なシンプルなものがいいのではないかと提案する。
シェフたちも納得したように頷いていた。
そしてキッチンへと戻っていく。
ピーターに歩み寄ろうとするシェフたちを見て、ディアンヌはもう大丈夫だろうと安心していた。
残りのスープやパンは彼らが味見するそうだ。
ディアンヌはリュドヴィックのハンカチを握りながら、ピーターが出て行った扉を見つめていた。
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