第17話 シャーリーside2


ディアンヌのために娼婦が着るようなドレスを、侍女にわざわざ購入させた。

毒々しい濃い紫色とペラペラの生地に、はしたないほどに肌を露出させた最悪なものだ。


ディアンヌに自慢するためにクローゼットに案内する。

シンプルなドレスはないかと言うディアンヌの言葉には腹が立って仕方なかった。


(このわたくしが、そんな貧乏臭いドレスを持っているわけないじゃない!)


シャーリーが怒りを露わにすると、ディアンヌは一歩引いた返事をした。

それにはシャーリーは満足だった。

やはりメリーティー男爵家は相当、追い詰められているらしい。


そして計画通り、安い娼婦のようなドレスを渡す。

ディアンヌの引き攣った顔を見ていたら心がスッとした。

返すから、と言うディアンヌにシャーリーは腹を抱えて笑うのを堪えていた。


(こんなドレスとも呼べないクソみたいなもの、返されたっていらないわ!)


それから明らかにディアンヌが履き慣れなそうなハイヒールを渡す。

これはディアンヌが大恥をかいて二度と社交界に出られないようにするためだ。

ディアンヌはペラペラなドレスとハイヒール、そしてパートナー同伴で行かなければならないパーティーの招待状を渡す。


(これでディアンヌとメリーティー男爵家の評判は地に堕ちる。没落して、二度とわたくしの前に姿を現すことはないのよ)


──パーティー当日。

シャーリーがジェルマンと、友人たちと会場に入るとディアンヌはもうやらかした後だそうだ。

『場違いな娼婦が誰かを待っていた』

そんな話を聞いたシャーリーは立っていられないほどに笑うのを堪えていた。


シャーリーの予想通り、ハイヒールを履きこなせずに長い裾を踏んで転んだそうだ。

思いきり頭もぶつけてひどい有様で医務室に運ばれたらしい。


(あーあ、折角の出会いのチャンスも活かせなあなんて……あの子らしいけどね)


パーティー会場に戻ってきたディアンヌは走ってきたのか頬は赤らんでいて、妙な色気を孕んでいる。

純朴な容姿とセクシーなドレスは、男性の視線を集めていた。

このまま放っておくことはできずにシャーリーは前に出る。


周りの令嬢やジェルマンには没落しそうだと無理矢理屋敷を尋ねてきて招待状を奪われた。

愛人になろうと一人でパーティーに乗り込んできた悪どい女だと説明していた。

学園では評判のよかったディアンヌも没落寸前で追い詰められたことで豹変したと思っている。


(フフッ……いい気味)


あっさりと騙されている友人やジェルマンは、ディアンヌを敵視しているようだ。

味方もいないこの状況でディアンヌは肩身の狭い思いをしている。

追い込むなら今だと思った。


ディアンヌの耳元でコッソリと真実を告げる。

すぐにでも泣き出すと思いきや、こちらを睨みつけたのだ。


さらにディアンヌを追い込むように自分の立場を教えてやった。

少しでも印象をよくしたいのか、その場を去ろうとするディアンヌ。

シャーリーはとどめとばかりに、こっそりとドレスの裾を踏みつける。


ディアンヌはその場で盛大に転んでしまう。

その行動にはジェルマンは驚いているようだが、令嬢たちはシャーリーと同じように吹き出していた。

絶対絶滅の状況だった。

ここまで落ちぶれてしまえば這い上がることなどできはしない。

そう思っていたのに……。


「……大丈夫か?」


ディアンヌを救ったのは予想外の人物だった。

リュドヴィック・ベルトルテ。

この国の宰相でシャーリーと同じ歳くらいの令嬢たちどころか、夫人たちからも絶大な人気を誇る公爵だった。


その理由は端正な顔立ちと男性とは思えないほどの美しさにある。

それに加えて頭もよく、彼は国王の幼馴染だ。


彼と結婚したい女性がこの国にはごまんといるだろう。

それはシャーリーも同様だった。

彼の美しさはジェルマンなど足元に及ばない。

すべてを持ち合わせた手が届かない存在……それがベルトルテ公爵だった。


最近、事故で亡くなった姉の子どもを引き取ったらしい。

彼女は駆け落ちして行方不明だったと噂が流れていた。

シルバーグレーの髪と宝石のようなロイヤルブルーの瞳をただ見つめていた。

神々しさすら感じるリュドヴィックにシャーリーはうっとりしてしまう。

彼はディアンヌを抱え上げて会場を去って行ってしまった。

パートナー同伴のパーティーだが、会場の女性の視線を一瞬で奪い去ってしまう。

皆、彼の行動に賞賛の声を上げる。


(どうしてベルトルテ公爵がディアンヌを……?)


シャーリーは親指の爪を噛んだ。

最後に起きた予想外の出来事に今までのいい気分は焦りに変わっていく。


(た、たまたまよ! 何もあるわけないじゃない。あるわけないのよ……!)


シャーリーは扉を見ながら、妙な胸騒ぎを感じていたのだった。


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