第39話 リュドヴィックside3
それにこれが契約結婚だと知っているのは屋敷の中でも一部の人のみだ。
だが、勘のいい者はわかってしまう。
しかしリュドヴィックはディアンヌと結婚した以上は、彼女が離縁して欲しいと言うまでは最後まで責任を果たすつもりでいた。
ディアンヌが自分を受け入れてくれたように、リュドヴィックも彼女を受け入れようと思った。
その決意を露わにするように、仕事の合間にメリーティー男爵への援助を行なう。
執事やマリア、エヴァと手紙のやりとりをしていた。
ディアンヌに任せきりなのは申し訳なかったが、会合も大成功。
仕事に集中して、なんとか今までの遅れを取り戻すことができた。
しかしついに二週間も屋敷に帰らずに、城で滞在していたことがロウナリー国王にばれてしまう。
彼は大激怒でこちらに迫ってくる。
「たしかに俺もリュドに頼りすぎたかもしれないが、まさかこんなに長期に渡り城に滞在していたとは……!」
「手紙で連絡はとっています。今のところ問題はありません」
「そういう問題ではない! リュド、一番大切なものは何だ?」
「それは……わかっています」
「いいや、わかっていない。お前には三日の強制休暇を与える。今すぐにメリトルテ公爵邸に戻れ」
「……!」
どうやらロウナリー国王は本気で怒っているようだ。
長年、一緒にいるせいか冗談かどうかわかってしまうようになった。
静かな怒りがこちらに伝わってくる。
ピーターの時も寛大な対応をしてもらい、ロウナリー国王には感謝していた。
(たしかに仕事はいち段落ついたし、片づいたが……)
仕事ばかりしていたリュドヴィックにとっては、屋敷にいたとしても何をすればいいかわからない。
「リュド、今のお前に必要なのは仕事ではないはずだ」
「……!」
「そんなことばかりしているとディアンヌに逃げられてしまうんじゃないか?」
「……ですが」
「手紙を読みながら、お前がどんな顔をしていたのか知らないだろう?」
ここまで言われてしまえば、従わなければならない。
ロウナリー国王に城から蹴り出されるようにして馬車に乗り込んだ。
屋敷に帰ると、いい匂いが鼻を掠める。
最近では片手間で食事をしていたので、お腹が空腹を訴えかけてぐーと鳴った。
中に入ると、丁度ディアンヌとピーターが食事をしているところだった。
中に入ることもできず、扉の外に背を預けて瞼を伏せる。
(今更、どんな顔をして会えばいいんだ……)
仕事を優先しながらも罪悪感は募っていく。
本来は自分がうまくやらなければならないのに、ディアンヌに負担をかけてしまった。
わかっていたからこそ、屋敷に帰れなかったのかもしれない。
そんな時、ピーターの悲痛な叫びと泣き声が耳に届く。
これが彼が小さな体に抱えていた本当の気持ちなのだと思うと、熱いものが込み上げてくる。
一緒にディアンヌの泣き声まで響いていた。
(すまない……すまない、ピーター)
ピーターの気持ちを初めて知り、鈍器で頭を殴られたような気分だった。
自分の至らなさを見せつけられているような気がしたのだ。
それと同時にディアンヌがいなければ、ピーターがどうなっていたかと思うと恐ろしい。
リュドヴィックの足は自然と二人の元へ向かう。
ピーターは自分よりも泣いているディアンヌを励ましている。
そしてディアンヌが空の皿を持ち、立ち上がって駆け出した時だった。
ディアンヌの足がフラリとよろめいたのが見えたリュドヴィックは咄嗟に体が動く。
どうやらディアンヌは転ばずに済んだようだ。
彼女は皿が割れないように上にあげている。
そういえば、パーティー会場で彼女は転んでいたことを思い出す。
目を真っ赤に腫らしているディアンヌを見ていると、胸が締め付けられる思いがした。
ピーターも嬉しそうな表情で「おかえり、リュド」と言ってくれた。
それから一緒にディアンヌの手料理を食べた。
リュドヴィックは何故かひどく懐かしい気持ちになる。
こうしてテーブルを囲みながらゆっくりと食事したのはいつぶりだろうか。
不思議と居心地がいいと思った。
(……家族、というのはこんな感じなのだろうか)
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