第40話 リュドヴィックside4

ピーターはお腹いっぱいになったのか、エヴァと共に部屋に向かう。


それからソファに腰掛けてディアンヌと話していた。

久しぶりに満たされたことや、疲れもあり素直な気持ちが言葉に出る。

『家族なんですから、助け合うのは当然ですよ!』

こんな気持ちで結婚を申し込んだことが申し訳なくなってしまうくらいに、ディアンヌは純粋で素晴らしい女性なのだと思った。


感謝の気持ちを伝えようと口を開く。

いつもは恥ずかしくて言えないような言葉が次々と出てくる。

そして静かで心地のいい空気に、そのまま眠ってしまったようだ。


(まさか……いくら疲れてたとはいえ信じられない)


リュドヴィックは口元を押さえながら、羞恥心から顔を真っ赤にしていた。

ディアンヌの前でこんなにも気を許していた事実を受け入れられそうにない。

それと同時にピーターが彼女に心を許す理由がわかってしまった。

裏表なく愛情深く接してくれるディアンヌを信頼しているのだろう。


よく見るとディアンヌの指は擦り切れており、苦労の跡が窺える。

メリーティー男爵家にはディアンヌ以外に四人の弟がいるそうだ。

料理を作れたり、ピーターの世話を積極的にできたりする理由もそこにあるのかもしれない。


そんな時、扉をノックする音が聞こえた。

ディアンヌを起こさないように声を出さないように返事をするか躊躇していると、ゆっくりと扉が開く。


ホワイトシルバーの髪、そこにはピーターの姿があった。

ピーターはリュドヴィックにもたれて眠っているディアンヌに気がついたのか、開けかけていた唇を閉じる。

それから唇に人差し指を当ててからリュドヴィックを見た。


(内緒にしろということか?)


ピーターの赤く腫らした目元を見ると胸が痛む。

しかし彼はソファによじ登ると眠っているディアンヌと、寄りかかられて動けないでいるリュドヴィックの間に腰掛けて寄り添うように身を預けている。

満面の笑みを浮かべているピーターにつられるようにして、リュドヴィックも微笑んだ。

彼のふわふわと柔らかい癖のある毛を撫でると、そのまま目を閉じてディアンヌに寄り添っている。


ピーターの重みが加わったことでディアンヌが身じろいている。

肌寒いのか無意識にピーターを抱きしめて、リュドヴィックに体を寄せた。

するとディアンヌは目をこすりながら、ボーッとしつつこちらを見つめている。

ディアンヌのベビーピンクの瞳と目があって数秒。

彼女は「えへへ……。一緒に眠っちゃいました」と言って、ヘラリと笑う。


その瞬間、リュドヴィックの心臓は今までにないほど大きく音を立てた。

ドキドキと脈打つ音がここまで聞こえてくる。

リュドヴィックは自分の中にあるディアンヌへの特別な気持ちが芽生え始めていたことに気づいていた。

こんな時、ロウナリー国王の『それにオレはお前の好みを誰よりも理解している自信があるからな!』という言葉が頭を過ぎる。

『可愛い』『守りたい』『彼女のことをもっと知りたい』

じんわりと広がるようにディアンヌへの気持ちが増していく。


(なんなんだ……この気持ちは)


ディアンヌはリュドヴィックが戸惑っている間も、ピーターを抱きしめて声を掛けていた。



「ピーター、今日は約束通りたくさん遊びましょうね」


「うん! リュドはまた仕事?」


「……!」


「ピーターのことは任せてくださいね」



ピーターとディアンヌの言葉に、三日間の休暇をもらったことを告げる。

ピーターは「リュドも一緒に遊べるね!」と、喜んでいたがディアンヌは何故かそれを聞いて浮かない顔をしている。

リュドヴィックはディアンヌに問いかける。



「どうかしたのか?」


「いえ……」



歯切れの悪いセリフが気になってしまう。



「何か気になることがあればすぐに対応するが……」



ディアンヌは覚悟を決めたように顔を上げた。



「あの……でしたらメリーティー男爵家に帰ってもよろしいでしょうか!?」


「……っ!」



その言葉にピーターとリュドヴィックは大きく目を見開いた。

心の中でロウナリー国王の言葉が聞こえた。

『そんなことばかりしているとディアンヌに逃げられてしまうんじゃないか?』

城を出る前に嫌味を言われたが、その通りになってしまうと思った。


まだディアンヌと過ごした時間はわずかだが、彼女と共にいる時は肩肘張らずにいられる。

契約結婚だということも忘れて、一週間でディアンヌに実家に帰られてしまうと焦りを感じた。


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