第13話


「パーティーは終わったが……なんだ。ピーターは寝てしまったのか」


「……はい。申し訳ありませんでした」


「いいや、構わん。だが、屋敷で待っていればよかったのではいか?」


「私がいなければ陛下が何をするかわかりませんから」


「ははっ、それもそうだな!」



笑っているロウナリー国王とリュドヴィックを交互に見たままディアンヌは動けずにいる。

リュドヴィックはロウナリー国王にこの状況を説明すると共に、ディアンヌの身にあったことを話していく。

ディアンヌが令嬢たちに囲まれており、嫌がらせを受けて、この場に一人で招待されたことも……。



「そうか、それは災難だったな」


「い、いえ……!」


「それにしても結婚相手を探して、わざわざこのような場に招くとは意地が悪いな」


「招待状も盗んだことにされてしまい……きっと皆さんに誤解されてしまいましたよね」



ディアンヌは眉を寄せながら、ピーターの頭を優しく撫でていた。

この噂が広まってしまえば、働き口がなくなってしまうのではないかという不安が頭を過ぎる。



「結婚……ふむ、結婚か」



すると、何かをブツブツと呟いているロウナリー国王と目が合った。

ロウナリー国王はディアンヌを見て頷いている。



「ところでどこの家の令嬢だ? 社交界では見ない顔だが……」


「申し遅れました! わたしはディアンヌ・メリーティーと申します」



ディアンヌはロウナリー国王に問われて思いきり頭を下げた。

ピーターを抱えているためカテーシーはできそうにない。



「メリーティー……? メリーティー男爵家か。ああ、俺が小さな頃に大好きだった果実を栽培していたとこだな。懐かしい……! 久しぶりにあの果実を食べたいなぁ」



ロウナリー国王は顎を押さえながら考え込んでいる。

ディアンヌはその言葉を聞いて、大チャンスだと思った。


(メリーティー男爵があるのは、今の陛下が子どもの頃に、うちのフルーツを気に入ってくれたからだとお父様に聞いたことがあるわ……!)


地獄に仏とは、まさにこのことだと思った。

それに、こんな貴重な機会を逃せば国王に直談判できることなど二度とないかもしれない。

ディアンヌは自らを落ち着かせるように深呼吸をする。

家族のためにできることをしなければと口を開く。



「国王陛下にそう言っていただき、大変嬉しいのですが……長雨でほとんど木がダメになってしまったのです!」


「なんだと……?」


「お父様は領民たちのために爵位を返上しようと考えているようです。それで図々しい考えではありますが……助すけていただける方を探すためにここに来ました」


「……そうだったか」



ディアンヌは今のメリーティー男爵領の状況について控えめに、けれど大胆に話していく。

ロランや三つ子のことを思う姉の気持ちをそれはもう大袈裟に……。



「弟は王立学園で国のために学びたいことがあると……! そんな弟な幼い三つ子のためにわたしががんばらねばいけませんからっ」



迫真の演技にロウナリー国王は鼻を啜り、涙を浮かべながら感動しているようだ。

拍手をしながら、何度も頷いている。

リュドヴィックはディアンヌの演技を見透かしているのか、冷めた視線が気になるところだ。

しかし今はこのチャンスと可能性に賭けるしかない。



「そうかそうか……! 熱い思いが伝わってくるなっ! もうすぐ生まれる子にも、オレが子どもの頃に好きだったフルーツを食べさせてやりたいな」


「わたしもお父様も、国王陛下のお気持ちに、是非とも答えたいのです……!」



するとロウナリー国王はハンカチでビーンと鼻をかんだ後に、リュドヴィックに視線を送っている。

ディアンヌも潤んだ瞳で彼を見つめて、懸命に『助けて欲しい』と、アピールしていた。

リュドヴィックの眉がピクリと動く。

その後に大きく咳払いをする。



「ゴホン……わかりました。メリーティー男爵領に関してはすぐに対策を考えます」


「おお、そうか! そういえば最近あの味が恋しいと思っていたんだ」



ディアンヌは眠っているピーターを抱えながら、深々と頭を下げていた。

パーティーであんなことがあったので、どうなることかと思ったが、ディアンヌは神に見捨てられたわけではなかったようだ。


(神様、国王様、リュドヴィック様……! 本当に本当にありがとうございますっ!)


彼らへの感謝から、ディアンヌの目には涙が滲む。

神はまだディアンヌを見捨てていなかったらしい。

ロウナリー国王が昔、メリーティー男爵家で育てているフルーツを気に入ってくれていて本当によかったと思った。

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