第47話


「今更なのですが、リュドヴィック様やベルトルテ公爵家のことを何も知らないので……折角、家族になったのですから色々と知れたらと思いまして……」


「……家族、か」



ディアンヌがそう言って笑うと、リュドヴィックはそう呟いた。

前世でも今世でも家族が支え合うことが当然だったディアンヌ。

だが、何も口にしないリュドヴィックの様子を見て、余計なことだったかもと反省していた。


遠くの方では三つ子とピーターたちが芝生の上を転がりながら遊んでいる姿が見えた。

ロアンは息絶え絶えになっている。


(そろそろ飲み物やクッキーを持っていかないとね)


ディアンヌがそう思っていると、リュドヴィックは思わぬことを口にする。



「私は、あまり家族と共に過ごした記憶はない」


「え……?」


「ベルトルテ公爵家に恥じないように、それだけを考えて生きてきた」



こうしてリュドヴィックが自分のことを話してくれたのは、はじめてのことではないだろうか。

ディアンヌは黙ってリュドヴィックの話に耳を傾ける。



「姉上はそんな公爵家に抗っていた。彼女は温かい人だったが、私は家族の良さがわからない」


「……」


「だからピーターが求めていることを、私が与えることはできないんだと思う」



リュドヴィックの育ってきた環境が、なんとなくではあるがわかるような気がした。

きっと公爵家では、転げ回って遊ぶことも許されなかったのだろう。

家族と過ごした温かい記憶もない。

だからこそピーターへの接し方もどうすればいいかわからなかったのかもしれない。


それからディアンヌはリュドヴィックと好きな食べ物やどんな風に今まで過ごしてきたのかなど、他愛のない話をしていた。

リュドヴィックは意外にも聞けばちゃんと答えてくれる。

たまにディアンヌが理解できない難しい言葉が返ってくるが、不器用なだけで誠実な人なのだとわかる。

少しではあるが彼のことを知れたような気がして嬉しかった。



「ディアンヌが育った場所は温かいな。不思議な気持ちになる」


「……リュドヴィック様」



リュドヴィックはチラリとディアンヌに視線を送る。

今まで見たことがない優しい笑みを浮かべた彼に、ディアンヌは惚けていた。

サッと視線を逸らしたディアンヌはドキドキとした胸を押さえる。

こんな気持ちになったところで、報われないのだから抑えなければと必死に言い聞かせていた。



「こんな風に何もせずに時間を過ごすのは、久しぶりだ」


「リュドヴィック様、今日だけでもゆっくりしてくださいね」


「ああ……今度は一日といわず、もっと滞在してみたい」


「ふふっ、リュドヴィック様がそう言ってくださって、わたしも嬉しいです」


「ピーターも……すごい暴れっぷりだな」



二人で話していると三つ子とピーターが、雄叫びを上げながら目の前を通り過ぎていく。

それには二人で吹き出すように笑ってしまった。


ピーターたちは先ほどまで喧嘩していたことが嘘のようにはしゃいでいる。

まるで兄弟のようだ。

リュドヴィックも「あんな嬉しそうなピーターは初めてだ」と、呟くように言った。


四人はそのまま近くの川で水浴びをして泥を落としてから、誰が一番早く飲み物を飲めるか競争した後、クッキーを頬張り、また遊びに向かった。

そして、母とディアンヌが作ったご飯を山のように食べて

四人とも同じ部屋で眠りにつく。

リュドヴィックも何食わぬ顔で食事をしていたのだが、彼の周りだけキラキラと輝く高貴なオーラに両親とロアン、ディアンヌは圧倒されていた。

自然と滲み出る神々しさに目が離せなくなる。

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