第46話

ディアンヌは何も言えずに口ごもることしかできなかった。

あんな風に言われてしまえば、ディアンヌも本当にそうなのかもと思ってしまう。


(さ、さすがリュドヴィック様だわ……! わたしとは全然違うもの。きっと嘘だってうまくつけるのね)


リュドヴィックが宰相として素晴らしいのは、こういうところなのだろうと必死に言い聞かせていた。



「すぐに結婚したと聞いて、とても心配していたけれど、あなたの幸せをきちんと考えてくれているみたいで安心したわ」


「そうね……そうだと思うわ」



リュドヴィックは結婚前に『私からの愛は期待しないでくれ』と言った。

以前はそう言われてなんともなかったはずなのに、今になってズキリと胸が痛む。

ディアンヌの表情を見てか、母は手を握る。



「ディアンヌ、辛くなったらいつでも頼ってちょうだい。できる限り力になるわ。あなたのおかげで、みんなが救われたんだもの」


「……ありがとう、お母様」


「本当に感謝しているわ。ありがとう」



ディアンヌは母と抱き合いながら目を閉じた。

ふと窓の外を見ると、四人が泥だけになりながら遊んでいるのが見える。

ディアンヌが窓を開けて声を掛けると、ロアンがこちらに気づいて困った様な表情で手を上げる。

ディアンヌも手を振りかえす。


ディアンヌたちが部屋に戻ると、二人は真剣な様子で話し合っている。

話の内容はメリーティー男爵領をどう立て直していくのか、だ。

リュドヴィックは父に新しい案を提案していく。

彼が手に持っている資料には、事細かに文字が書き込まれていた。


(リュドヴィック様……こんなことまでしてくださるなんて)


どうやらリュドヴィックはメリーティー男爵領がこれからどうすればいいのか考えて父に提案してくれているようだ。

ディアンヌもこっそりと聞かせてもらったが、リュドヴィックの案は、どれも素晴らしいものだった。

父はその資料を抱きしめながら『これでメリーティー男爵領も安泰だ! 本当にありがとうございますっ』と、泣きながら喜んでいた。


話し合いを終えた後、ディアンヌはリュドヴィックに男爵邸の周辺を案内していた。

とはいっても、周りは畑だらけなのだが。

しかし意外にも、リュドヴィックは興味深そうに観察している。

公爵邸や王都は建物ばかりなため、物珍しいのかもしれない。


暫く畑を歩いていくと、目の前に色とりどりの花が咲いているのが見えた。

木でできたベンチは父の手作りだ。

ここは幼い頃からディアンヌのお気に入りの場所だった。

花のいい香りが、風と共に漂ってくる。

ディアンヌとリュドヴィックはベンチに腰掛ける。

そして改めてリュドヴィックにお礼を言った。



「リュドヴィック様、今回のこと本当にありがとうございます。メリーティー男爵家のことを考えてくださり、嬉しいです」


「いや……大したことはしていない」


「大したことありますっ! リュドヴィック様は素晴らしい方ですから」



するとリュドヴィックは珍しく照れているのか、ほんのりと頬が赤らんでいく。



「リュドヴィック様は色々なことを知っているんですね」


「……?」



ふと、ディアンヌはリュドヴィックについて知らないことがたくさんあることに気づく。


(わたしはリュドヴィック様やベルトルテ公爵家のことを何も知らないわ)


出会って間もないので当然といえば当然なのだが、ディアンヌはリュドヴィックのことを何も知らない。

気になったディアンヌは素直に問いかけてみることにした。



「リュドヴィック様は何が好きなのですか?」


「は…………?」



リュドヴィックは、わずかに目を見張りながらディアンヌに視線を送っている。

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