第4話
ディアンヌはシャーリーに背を押されるように部屋を出る。
(このドレス、わたしには絶対に似合わないわ……)
そんな気持ちを見透かすように、シャーリーは「パーティーには絶対にそのドレスを着てきてね」と言われてしまう。
試着までさせられたが、裾が長く、タイトなドレスはディアンヌにまったく似合っていない。
チグハグ感は拭えなかった。
(シャーリーが親切にしてくれたんだもの。ちゃんと着ないと……)
シャーリーはディアンヌを見てずっと腹を抱えて小さく震えていたが、気づかないフリをしていた。
「あとは、このパーティーは婚約者を見つけるのにもってこいよ! 誰でも参加できるからあなたでも大丈夫」
シャーリーから渡されたのは真っ黒な封筒に金色の文字。
明らかに普通の招待状ではないが、窮地に陥っていたディアンヌにとってはありがたく思えた。
「シャーリー、何から何まで本当にありがとう」
「あはは、いいのよ……がんばっていい人を見つけてねぇ?」
シャーリーにお茶でもどうかと誘われたディアンヌだったが、これ以上ここにいたくはなかった。
さすがのディアンヌも、シャーリーに馬鹿にされているのだとわかる。
だがドレスを貸してくれたり、いいパーティーを紹介してくれたりと、優しい部分も残っているのだと言い聞かせていた。
ディアンヌは無理やり笑顔を作っていた。
ディアンヌが「弟たちの面倒を見ないといけないから、すぐに帰らなくちゃ……」と言うと、シャーリーはまた吹き出すように笑っていた。
その後ろでは、カシス伯爵邸の侍女たちも笑うのを堪えている。
なんとか領地を建て直して、領民たちを守ろうとする両親の代わりに、家のことはすべてディアンヌがやっていた。
カシス伯爵邸の玄関まで辿り着いて立派な扉が開く。
「あなた何で来たの? 馬車はどこ?」
「馬車は壊れてしまったから、馬に乗ってきたのよ」
「ブッ、アハッ! 最悪じゃない、本当に貴族なの!? 信じられないっ」
「……」
「ああ、貴族じゃなくなりそうなんでしたっけ! あははっ」
ついに隠しもせずに笑い出したシャーリーに、ディアンヌは俯くことしかできなかった。
しかし今、メリーティー男爵家に馬車を新しく買ったり直すお金はない。
ディアンヌは笑みを浮かべながらも、モヤモヤする気持ちを必死に押さえていた。
そして表向きは親切にしてくれたシャーリーにお礼を言うために口を開く。
「ドレスや靴を貸してくれてありがとう、シャーリー。本当に助かったわ」
「いいのよ! フフッ、がんばってねぇ」
クスクスと響く笑い声は居心地のいいものではない。
もうシャーリーには何も頼まない方がいいだろう。
ディアンヌは今回の件でシャーリーの本音を垣間見たような気がした。
彼女はディアンヌを見下しているのだろう。
変わってしまった友人に大きなショックを受けつつも、借りたドレスをギュッと握りしめた。
(馬鹿にされても仕方ないわよね……こうしてドレスを貸してくれただけありがたいと思わないと)
ディアンヌはなんとか気持ちを立て直してから、心からの笑顔を作る。
シャーリーに深々とお辞儀して「ありがとう、シャーリー。必ず返すから!」と言って馬に乗った。
シャーリーは小さく振っていた手をすぐに下ろした。
ディアンヌを見送りながら、シャーリーは呟くように言った。
「あの子の、ああいうところが大っ嫌い……っ!」
* * *
メリーティー男爵領に帰る途中、ディアンヌの目からはポロリと涙が溢れた。
シャーリーと自分の境遇を嫌でも比べてしまう。
どうして自分ばかりこんなに苦労するのか、そう思ってしまうことが嫌だった。
今、ディアンヌは不安で仕方がない。
家族の未来がどうなってしまうのか、こんな自分が本当に嫁ぐことができるのか。
考えても考えても答えは見つからない。
(弱気になってはだめよ。わたしだけでも前を向かないと……!)
大好きな家族のためならなんだってできるはず。
そう言い聞かせながら、ディアンヌは乱暴に涙を拭った。
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