第43話
「そういうわけにはいきませんから!」
しかしリュドヴィックはまったく引く様子はない。
ディアンヌの頭は『休息』の二文字で覆い尽くされていた。
純粋な気持ちでリュドヴィックに提案する。
「なら、一緒に眠りましょうか!」
「は……?」
頑なにベッドで眠ろうとしないリュドヴィックの腕を引く。
けれど彼もわずかに抵抗しているようだが、ディアンヌの心の中は親切心でいっぱいだった。
「広いベッドですし二人で眠ったとしても、全然問題ありませんから」
「……だが」
「明日も早いですし、今はゆっくりと休みましょう」
「…………」
ディアンヌはリュドヴィックをベッドに座らせた後に、自分も反対側に回り込む。
彼とは契約結婚だと、まったく警戒心のないままディアンヌはそのままフカフカなベッドに寝転んだ。
リュドヴィックもベッドに入ったようで、ディアンヌはホッと息を吐き出す。
「リュドヴィック様、おやすみなさい」
「ああ……おやすみ」
ピーターと外でたくさん遊んだからか、すぐに眠気が襲ってくる。
貧乏生活から人と一緒に眠ることに慣れていたディアンヌは、リュドヴィックがいることをまったく気にすることなく熟睡していた。
リュドヴィックは寝息を立てるディアンヌを確認して、上半身を起こす。
腕を伸ばして、寝息を立てているディアンヌの髪をサラリと撫でた。
「無防備だな……」
リュドヴィックは手を引いた後に額を押さえた。
小さなため息を吐き出す。
「こんな状況で……眠れるわけないだろう」
そんな言葉が静かな声が響いていた。
* * *
ディアンヌは眩しい朝の光を感じていた。
瞬きを何度か繰り返すが、肌寒さにシーツをかけようと手を伸ばす。
(まだ眠い……もう少しだけ)
いつも誰かしらがディアンヌのベッドに潜り込んでいることを思い出して手を伸ばす。
ほんのりとした温かさを感じたため、ディアンヌは目を閉じたまま抱きしめるように腕を回す。
しかしなかなかいつものように抱き抱えることができずにグリグリと腕を押し込んでいく。
(ライでもルイでもレイでもない。いつもより大きくて固い気がするけれど、ロアンかしら……ここに来るなんて珍しいこともあるのね)
ディアンヌは彼を抱きしめつつも、ピッタリと体を寄せる。
人肌がじんわりと温かくて気持ちいい。
(あー……幸せ)
肌寒さもなくなり、もう一度眠ろうかと思った時だった。
「……ディアンヌ」
いつもよりもずっと低い声で名前を呼ばれたことにハッとする。
急に意識がクリアになっていくような気がした。
ディアンヌはカッと目を開いて声をする方に視線を向けた。
シルバーグレーの髪は乱れており、長い前髪の隙間から覗く端正な顔立ち。
ロイヤルブルーの瞳は眠たげで、シャツの隙間から見える肌と相俟ってとても色っぽい。
目の前には固い胸板があり、ディアンヌの手足はリュドヴィックの体にピタリと絡まっている。
そして昨日、一緒に寝ていたことをぼんやりと思い出してディアンヌは悲鳴が出そうになるのを押さえていた。
自分の行動がありえないものだと気がついて、気が動転してしまう。
だが、ディアンヌはあまりにもパニックになりすぎて、気づいたら普通に挨拶をしていた。
「お、おはようございます」
「……おはよう」
ディアンヌは体を少しずつ少しずつ離していく。
そしてコロコロと転がりつつ、何事もなかったようにベッドから起き上がる。
腕を上げてストレッチをしながら、必死に誤魔化していた。
「リッ、リュドヴィック様、いい朝ですね!」
「……ああ」
リュドヴィックの反応が怖くて振り向くことができない。
そんな時、扉をノックする音が聞こえた。
マリアが「昨晩は申し訳ございません」と、言いながら部屋の中へ入ってくる。
二人の間に流れる固い空気を察したのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます