第34話 決着

「いけません! こんな脱獄エルフに、我が国の秘術を教えるわけには!」

「そうです! エルフなんぞに!」


 次々と反対意見を述べるドワーフたち。

 するとたちまち、王様が声を荒げる。


「この期に及んで、そのようなことを言っていてどうする!」


 まさしく鶴の一声。

 たちまち、ドワーフたちのざわめきが収まった。

 王さまはそのまま私に近づいてくると、アースドラゴンの鱗を見ながら言う。


「自らの魔力を鱗に流し込み、それで完全に満たし切るのだ。そしてその上で、この術式を使うがよい」


 そう言って王さまが渡してきた紙には、古い土魔法と思しき魔法陣が描かれていた。

 金属を生成したりする魔法の応用のようで、ベースとなっているのは魔力操作の技術だな。

 物体に魔力をしっかりと馴染ませたうえで魔力を操作することで、ついでに物体そのものも動かしてしまうということらしい。

 なるほど、確かにこれを使えば膨大な魔力を消耗するが硬い物質だって変形させられる。


「ありがとう。でもこれって……」

「恐らくは、黄金石を作った存在がドワーフのために編み出した技であろう。だが察しの通り、魔力に恵まれない我らには使いこなせるものではない」


 そう言うと、王さまは大きくて深いため息をついた。

 私が先ほど彼に告げた、黄金石の制作者はエルフではないかという説。

 どうやらその予想は正しかったようだ。


「戦いが終わった後、話したいことがある。時間を取ってくれるな?」

「もちろん。ドラゴン肉を食べてからにしたいけど」

「……そうだな、勝つことが出来れば国を挙げて祝宴を催すことを約束しよう」


 やれやれとばかりに苦笑しつつも、王さまはしっかりと約束してくれた。

 よし、そうこなくっちゃ!

 私は笑みを浮かべると、グッとこぶしを握り締めて告げる。


「よし、なら任せといて。鱗さえ破れればあれぐらいすぐだから」

「そう言ってカッコつけた割に、さっきは苦戦しましたけどね」

「もー! イルーシャはどうしてそういうこと言うかな?」

「ララート様がすぐに調子に乗るからです!」


 くだらない言い争いをしつつも、私は再びフェルに乗った。

 そしてアースドラゴンに向かって突っ込み、ブレスの射程に入ったところで――。


「とうっ!!!!」


 身体強化を最大限に掛けて、思いっきり空へと飛びあがる。

 こうして遥か上空に到達したところで、私は足裏に氷の魔力を纏った。

 そしてそのまま一気に急降下し、アースドラゴンの頭の上へと着地する。

 

 ――ジャリッ!!


 たちまち出現する氷。

 それによって私の身体は、アースドラゴンの頭の上にさながら根が生えたように固定された。

 こうすることによって、頭の上から振り落とされることがなくなったわけだ。

 が、先ほどのようにアースドラゴンがひっくり返ったら逃げ遅れるのは必定。

 勝負は一瞬、早急につけなければならない。

 そうなれば狙うは一か所、脳天のみ!


「開けぇえええええ!!!!」


 鱗に手を添えて、一気に魔力を流し込む。

 灰色をしていた鱗が私の魔力に染まり、ほんのりと光を放ち出す。

 私の使用としていることを察したのか、はたまた本能の為せる業か。

 侵入してくる魔力を押し返そうと、アースドラゴンの魔力が押し寄せてきた。

 でもこの程度、どうってことない!

 こちとら魔法特化のエルフ、それも数百年生きてる竜級の大魔導師!

 魔力比べじゃ負けないよ!


「はあああああっ!」


 ゆっくりゆっくりと、鱗が変形を始めた。

 流石に元の強度が半端なものではないだけに、なかなか時間がかかる。

 とはいえ、要領を掴んでしまえばこっちのものだ。


「……開いた!」


 鱗が変形し、人が通れるほどの穴が開いた。

 露わとなった肉に、私は自爆以外で最大の攻撃を叩き込む。


「白き炎よ……貫けっ!!!!」


 紅から蒼、そして白へ。

 みるみるうちに温度を上げた炎を収束させ、一筋の光へと変える。

 それはもはや、炎というよりもビーム攻撃か何かのようだ。

 白い光はたちまちドラゴンの肉を貫き、その脳へと達する。


「グギャアアアアアアアアッ!!!!」


 脳を貫かれ、断末魔の雄叫びを上げるアースドラゴン。

 天を割るような大音響に、私はたまらず耳を抑えた。

 頭が……割れる……!!

 加えて、アースドラゴンが痛みに任せて激しくヘッドバンキングし始めた。

 強烈な加速度が全身を襲い、音でくらくらしていた頭が更に朦朧とする。


 ――バキッ!!


 ここで、嫌な音が耳に届いた。

 それと同時に、全身がふわりと空中に投げ出される。


「まず……っ!」


 想定を超えた負荷で、身体を支えていた氷が砕けたようだった。


「ララート様!?」

「わん、わん!!」


 こちらを見ながら、悲鳴を上げるイルーシャたち。

 私はとっさに最大限の身体強化を掛けると、首を持っていかれないように身体を丸めた。

 そしてそのまま地面にダイブ。

 ゴロゴロと斜面を転がり、どうにか勢いを殺していく。


「……助かった」


 地面が平らではなく、斜めだったことが幸いした。

 上手く衝撃を和らげた私は、体中についた土埃を払いながら立ち上がる。

 切り傷がいくつかできてしまっているけれど、このぐらいならばすぐ治るだろう。


「ララート様~~!! 大丈夫ですか~~!!」

「平気だよ~~!」


 心配して駆け寄ってきたララート達に、手を振って健在をアピールする。

 そうしたところで、ドスンッと大きな地響きがした。

 振り向けば、いよいよ力尽きたアースドラゴンの頭が地面に崩れ落ちていた。

 その眼からは光が失われ、全身から少しずつ魔力が発散されているのがわかる。

 無秩序に取り込まれた器に合わない魔力が、抜けていっているのだ。


「うわぁ……綺麗!」

「天に還ってるみたいですね」


 無数の光の粒子が空に向かって、昇っていく。

 時刻はちょうど夕刻、日が沈み始めた頃。

 群青色の空に輝く金色の光は、とてもまばゆく神秘的に見えた。


「ひとまず、私たちの勝利ってことね!」


 腕組みをしながら、私はそう満足げに呟くのだった。

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