第25話 潜入!!
「ええ、魔石の粉を飲まされた!?」
翌朝。
事の顛末を聞いたイルーシャは、ひどく動揺していた。
人口の限られた平和な里じゃ、こんなことあり得ないからね。
ひどくおびえた様子の彼女の背中をよしよしと撫でてやる。
「大丈夫だよ、イルーシャは私が守るから」
「は、はい」
「モードンさんは全力で反省してよ。こんなかわいい子を怯えさせちゃって!」
「も、申し訳ありません……」
モードンさんは改めて、深々と頭を下げた。
……まあ、本気で反省しているようだしこれ以上は詰めないけどさ。
もしまた何かあったら、今度こそただじゃおかないからね!
「それはそうとして、どうします? 資料を確認しようにも、入れないんですよね」
「うん。モードンさん、城に抜け道とかってないの?」
「いえ、そのようなものは……ないはずです」
モードンさんは一瞬考え込むような仕草をしたが、そう答えた。
……これは、たぶんあるな。
私は直感的に、モードンさんが何かを隠そうとしていると感じる。
「……そっか。じゃあ諦めるしかないね」
「どうでしょう? 今日は下層の農場にでも行ってみますか? 美味しいキノコがたくさんありますよ」
「んん~~! キノコは美味しそうだけど、イルーシャがね。まだ、頭くらくらするでしょ?」
私はそう言うと、イルーシャとアイコンタクトを取った。
すると彼女は意図を察したのか、大袈裟な仕草でふらつき始める。
「そ、そうですね。まだめまいが……しばらくおうちでゆっくりさせてください」
「イルーシャは私が見てるから、モードンさんはお仕事にでも行ってて。私たちの相手で滞ってるでしょ?」
私にそう言われて、モードンさんは大人しく部屋を出て行った。
薬を盛ったこと自体に負い目があるからだろう、多少不審な点があっても追及はしてこなかった。
よしよし、上手くいったな……。
「とりあえず合せましたけど……。ララート様、何をするつもりですか?」
「決まってるじゃん。抜け道を使って、こっそりお城に侵入する」
「……ヤバいですよ! それに、抜け道なんてないって言ってたじゃないですか!」
「いや、あれはあるね。答える前に溜めがあったもん」
「だとしても、そんなのどうやって見つけ出すんですか?」
「そりゃもちろん、フェルのお鼻で」
私はそう言うと、小さくなっていたフェルを抱きかかえた。
精霊獣であるフェルは、一般の犬なんてはるかに上回る嗅覚を持っている。
抜け道の一つや二つ、簡単に見つけられるはずだ。
「フェルならできそうではありますけど……」
「お城の書庫へ行けば、希少な資料がきっといっぱいあるよ。ひょっとすると、古代の魔導書とかもあるかも」
「おぉ! ちょっと興味惹かれますね!」
「あとは、美味しいドワーフ料理のレシピ本とかも!」
「……それは、イルーシャ様があったらいいなって思ってるだけですよね?」
「と、とにかく! このままだとらちが明かないしさ。行ってみよ」
イルーシャの疑問を私は強引に押し切った。
こうして私たちは、城の書庫へと忍び込むべくこっそりと家を出るのだった。
――〇●〇――
「全然気づかれないね」
光魔法で姿を消した私たちは、城の衛兵の前をゆっくりと通過していた。
魔法は完璧に機能しているらしく、衛兵たちは壁にもたれかかって呑気にあくびをしている。
まったく、国が大変だというのに気楽なもんだ。
「フェル、どうですか? 抜け道の気配はありますか?」
イルーシャの問いかけに、フェルはこっちへ来いとばかりに前脚を上げた。
彼はそのままどんどんと通路を下へ進んでいき、やがて大きな石の前で足を止める。
「これが入り口?」
「わん」
試しに岩を押してみると、大きさの割に軽い感じがした。
流石はフェル、これで間違いないようだ。
「イルーシャも手伝って。押すよ」
「はい!」
周囲に人がいないことを確認して、岩を二人掛かりで押す。
――ザラザラザラ……。
やがて岩の下から、下へ続く階段が姿を現した。
おー、こりゃ映画みたいだね!
私たちはすぐにそこを下って、そのまま奥へ奥へと進んでいく。
「これは間違いなさそうだね」
「ええ。でも、どこへ繋がってるんでしょうね?」
やがて下向きだった階段は上向きとなり、折れ曲がりながらも高度を上げていった。
方向からして、まず間違いなく城へと続いているだろう。
さてさて、一体どこへ繋がっているのかな。
テンプレな感じだと、地下牢とかだろうか?
それとも、王様の寝室とかかな。
いずれにしても、図書室へ近い方が嬉しいんだけど。
「……声が聞こえてきましたね」
「注意してよ。魔法で姿は見えないはずだけど、音は聞こえるからね」
そう言うと、私たちは慎重に足音を殺して階段を上った。
するとやがて、行き止まりへと到着する。
天井の部分が蓋のようになっていて、どうやらここが出入り口となっているらしい。
「……重っ! イルーシャ、手伝って」
「はい……」
何かで塞がれているのだろうか。
蓋を開けようとしたが、重くてびくともしなかった。
そこでイルーシャも加えて、二人掛かりでえいやと動かそうとする。
ほんっと重いなぁ、こうなったら……。
私は身体強化を最大限に掛けると、思いっきりジャンプして体当たりをした。
すると――。
「うおっ!?」
「ふぅ、出られた……あ?」
豪華な椅子とそこから放り出されたらしい王冠を被ったドワーフが、目の前に転がっていた。
さらに周囲は地底とは思えないほどの大空間で、太い柱に支えられた天井は聖堂を思わせるような荘厳な作りである。
これは……あれかな?
ゲームとかでたまにある、玉座の裏に抜け道があるってパターンだったのかな?
何となく事情を察した私は、たまらず眼を丸くした。
そうしているうちに、王冠を被ったドワーフが起き上がって叫ぶ。
「曲者だ、今すぐ捕らえよ!!」
姿が見えないものの、凄い勢いで突っ込んでくるドワーフの戦士たち。
彼らの数の暴力によって、私たちはすぐに取り押さえられるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます