第31話 見参!!

「グオオオオオオッ!!!!」

「うごぉっ!?」

「なんだこれは……!」


 大きく息を吸い込んだアースドラゴンは、いきなり猛烈な鼻息を噴き出した。

 ――ゴウウウウウゥッ!!

たちまち圧縮された空気が、土や岩と一緒になってドワーフに襲い掛かる。

 その威力は凄まじく、たちまち数名のドワーフが吹き飛ばされた。

 どうにか堪えた他のドワーフたちも、土にまみれてボロボロだ。

 戦い始めた際は新品同然に磨き上げられていた鎧も、一撃で傷や凹みだらけになっている。


「くっそ、妙な攻撃しやがって!」

「今まで温存してたのか……?」


 新たに加わったアースドラゴンの強力な攻撃パターン。

 被害を出したドワーフたちは渋い顔をしつつもすぐに体制を建て直す。


「とにかく二発目を撃たせるな! 奴の口を狙え!」

「魔槍だ、魔槍を持ってこい! 使い捨てにして構わんぞ!」


 隊長の指示が飛び、今度は槍が運び込まれた。

 ――魔槍。

 魔剣と同様に、魔法文字によって威力が強化された希少な武具だ。

 ドワーフたちは次々とそれを構えると、槍投げの要領で放つ。

 売れば一本で百万ゴールドはくだらない業物。

 それがまさしく雨あられのように放たれた。

 アースドラゴンの口めがけて放たれたそれは、狙いすましたようにそこへと吸い込まれていく。


「グオオオオォッ!!」


 地面を喰らおうと、大口を開けていることが災いした。

 アースドラゴンの舌に魔槍が突き刺さり、天が裂けるほどの大音響が轟く。

 身体を貫くようなそれに、ドワーフたちはたまらず耳を抑えた。

 中には気絶し、そのまま倒れてしまうものまでいる。

 こうしてドワーフたちの動きが鈍ったところを、アースドラゴンは見逃さなかった。

 ゆっくりとドワーフたちに尻尾を向けると、そのまま一気に薙ぎ払う。


「かわせっ!!」


 隊長のとっさの指示で、姿勢を低くするドワーフたち。

 数名のドワーフが巻き込まれたものの、どうにか尻尾の一撃を回避した。

 だが――。


「うがっ!!」

「しまっ!!」


 ゆっくりと間を置いて、二発目の攻撃。

 ――一度攻撃を回避すると少し安心する。

 そんな心理を突いて来たかのような、最悪のタイミングであった。

 ドワーフたちの戦線は乱れ、いよいよ彼らの顔に焦りが浮かぶ。


「こりゃ勝てんかもしれんぞ……」

「弱気になるな! 絶対勝てる!」

「とはいえ、予想よりはるかにタフだぞ」


 槍をかみ砕き、まとめて吐き出したアースドラゴン。

 口から赤い血を垂らしているが、その姿にはまだまだ余裕がある。

 むしろ、鱗が燃え上がっていたのも収まりまだまだこれからといった様子だ。

 一方のドワーフたちは既に満身創痍。

 無事でいる者はなく、みなどこかに怪我をしている。


「……隊長、撤退しよう!」


 ここで、隊長の隣にいたドワーフが進言した。

 彼は長年に渡って隊長とともに戦ってきた信頼のおける副官である。

 たちまち、隊長の表情が険しくなる。


「……ならん。ここで俺たちが逃げたら、誰が国を守る!」

「だからと言って、このまま戦っても犬死だ! それよりも、国へ戻って皆を避難させた方がよほどいい!」

「逃げてどこに行く!」


 ここで、隊長の声が一気に大きくなった。

 彼は副官に詰め寄ると、その胸ぐらをつかんで言う。


「わしらにはあの場所しかないのだ! 逃げたところで、人間や他の亜人が我らを受け入れるとは思えん! 国を持たない生活の悲惨さはお前も聞いて来ただろう!」


 かつて、ドワーフはエルフとの闘争に敗れて国を失った。

 そして長い放浪の果てに、現在の地下王国がある場所へとたどり着いたのである。

 その生活の悲惨さは、教訓として広く語り継がれている。

 自信の妻や子にそんな思いをさせたくないというのは、この場にいるドワーフ全員の想いであった。

 だからこそ、あれほど巨大なアースドラゴンを相手に戦ってきたのだ。


「わしらは必ず勝たねばならん。絶対にだ!」

「うおおおおおっ!!」


 隊長に応じて、気勢を上げるドワーフの戦士たち。

 その数は、最初と比較して半分ほどにまで減ってしまっていた。

 しかしその気迫、その情熱、その想いは全く減じてはいない。

 それどころか、国の危機を前に全員が奮い立ち、勢いを増しているほどであった。


「ゆくぞ!!!!」


 隊長の号令の下、魔剣を高く掲げたドワーフたちが一斉に突撃した。

 覚悟を決めた彼らに、もはや何の迷いもない。

 ――せめて、アースドラゴンの鱗の一枚でも剥ぎとってやろう。

 彼らはためらうことなくアースドラゴンに向かって突き進むが、ここで――。


「ちょーーーーっと待ったああああぁ!!!!」


 背後から響いて来た少女の物と思しき声。

 異常な音量で聞こえたそれに、ドワーフたちはたちまちおやっと振り返る。

 するとそこには、二人の少女と一匹の犬の姿があった。


「そんな突撃、死ぬだけで何にもならないよ。大丈夫、そいつは私が倒す」


 そう言うと、力強い笑みを浮かべるララート。

 その自信たっぷりな声を聴いて、必死の形相で会った戦士たちはたちまち呆気にとられたような顔をするのだった。

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