第32話 思いつき
「うひゃー、すっごいことになってる!」
牢屋を襲う揺れがちっとも収まらず、どんどんひどくなる一方だったので出て来てみれば……。
地上は既に、とんでもないことになっていた。
戦闘不能になってしまったドワーフたちがそこら中に転がっていて、まさに死屍累々と言った有様。
残ったドワーフたちも覚悟を決めて、全滅上等とばかりに突撃しようとしていた。
それに対する巨大なアースドラゴンも、いったい何があったのか黒焦げになっている。
私が地下にいる間に、ここではとんでもない激戦が繰り広げられていたようだ。
「なんだエルフ! 俺たちの死に際に水を差しやがって!」
「そうだ! アースドラゴンの味方をしに来やがったか!」
私たちの方を見て、口々に文句を言うドワーフたち。
ついさっきまで命を捨てようとしていただけあって、その迫力は半端なものではない。
耐性の無いイルーシャなど、ビクッと体を震わせる。
「そんなんじゃないよー! ただ、冒険者としてアースドラゴンを倒せって依頼を受けてるものだからね。それに従って、アースドラゴンを倒しに来たってだけ」
「ああ? んだそりゃ?」
「私たちにも、アースドラゴンと戦う理由はあるってこと」
「そんなこと言われても、だいたいお前たちは牢に――」
戦士長さんの言葉が終わらないうちに、私は攻撃態勢に入った。
右手を高く掲げ、巨大な炎の塊を作り出す。
魔力を急速に充填された炎は、たちまち太陽さながらに紅く輝く。
「さーて、どれぐらい強いか見せてもらおうか!」
まずは様子見の一発。
炎が風を切り、たちまちアースドラゴンの頭に直撃する。
しかし、まったく効いた様子はない。
「へえ、やるね! 単純な火力攻めだと厳しいかな?」
見た目から予想した通りだが、アースドラゴンの防御力はたいしたもの。
様子見とはいえ、並のモンスターなら粉々に吹き飛ぶ威力だったはずだがビクともしない。
流石にエルフの里で戦った相手ほどではないが、真正面からやったのではかなり骨が折れそうだ。
うーむ、どこかに弱点はないかな?
私はフェルの上に飛び乗ると、そのまま前脚の間を抜けてアースドラゴンの腹の下へと滑り込んだ。
そして再び炎を放つ。
「はああああっ!!」
前脚の付け根、お腹の真ん中、膝の裏。
構造的に弱いであろう部分を重点的に、次々と攻撃した。
そのいやらしい攻撃にアースドラゴンはたまらず膝を屈し、地面に腹を付けようとした。
私は即座にフェルを走らせ巨体の下から脱出すると、伏すように頭に向かってもう一度攻撃をする。
――ドオオォンッ!!
炎の塊がちょうど、アースドラゴンの鼻先に当たった。
流石のドラゴンといえども、鼻への直撃は効いたのだろう。
怯むように顔を持ち上げ、悲鳴を響かせる。
「ギャアアアッ!!」
「よし、ならもう一発……!」
有効打となったことを確認して、私はもう一度鼻を狙って攻撃を放とうとした。
だが次の瞬間――。
「待て、それは……!!」
「んん?」
ここで急に、戦士長さんが私に声をかけてきた。
待てと言ったような気がするけれど……もう間に合わない。
私の放った炎は、正確にアースドラゴンの鼻先へと向かった。
すると――。
「なっ!」
「いかん、避けろ!!」
炎の塊が当たる直前、アースドラゴンがいきなり猛烈な鼻息を吹いた。
たちまち炎は散り散りとなり、火の粉となってこちらに押し返されてくる。
――まずい!
分散して粉々になったとはいえ、魔力をたっぷり込めた業火である。
人を焼いてしまうぐらいの威力はある。
私はすぐさま風魔法でそれを押し返そうとするが、なかなかどうして凄まじい風圧だ。
こりゃ、鼻息というよりももはやブレスだね!
「手助けします!」
「わんわん!」
すかさず、イルーシャとフェルが助けに入ってくれた。
三人がかりで風を起こし、どうにかドワーフたちを炎から守る。
ふぅ、危なかった……!
流石にこの攻撃はちょっと予想外だ。
「あのドラゴンは先ほどもああして、強烈なブレス攻撃を仕掛けてきたのだ! 注意しろ!」
「こうなると、迂闊に攻撃を仕掛けられないね」
一応、私とイルーシャが力技で押し込むこともできるだろうが……。
それでも、けっこう分の悪い賭けになってしまいそうだ。
かといって、ブレス攻撃を受けにくい顔以外の場所は非常に外皮が分厚い。
あの岩のような硬くて頑丈な鱗を破るには――。
「そうだ! イルーシャ、来て!」
「は、はい!」
「おい、どうする気だ? 何か策でもあるのか?」
「まあね! 現代知識が戻ったからこそできるやつ?」
「はぁ?」
呆れたような顔をする戦士長さん。
それをよそに、私はイルーシャとともにフェルに乗って駆けだすのだった――。
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