【書籍化決定！】ぐうたらエルフののんびり異世界紀行 ～もふもふと行く異世界食べ歩き～

第33話 王の決意

　精霊獣であるフェルはその本領を発揮し、凄まじい速力でアースドラゴンの背後へと回り込んだ。

　アースドラゴンはとっさに身体を捻って対応しようとするが、もう遅い。

　フェルは一気に飛び上がると、そのままアースドラゴンの背中へと着地する。

「よし、到着！」

「ララート様も無茶しますね！」

「でも、いったんここまで来ちゃえばそうそう攻撃できないよ」

　私たちを振り落とそうとするアースドラゴン。

　だがその身体の構造上、背中にいる私たちを直接攻撃することは難しい。

　背中にはても届かないし、ブレスだって当てられないからね。

　ある種の死角となっているのだ。

　その代わりに、背中を守る外皮はとても分厚そうなのだけれど……。

　それを打ち破るための策がある。

「さあいくよ！　イルーシャは氷の魔力を高めて！」

「はい！」

　その間に、私とイルーシャはそれぞれ炎の魔力を高める。

　フェルの身体を挟むように、性質の相反する二つの魔力が渦巻く。

「はああああっ！！」

　まず先に仕掛けたのは私であった。

　巨大な炎を顕現させ、それをさながらガスバーナーのように鱗に当てていく。

　鱗を破壊するのではなく、とにかく熱することが目的の攻撃だ。

　もともと灰色をした岩の様であった鱗が、だんだんと赤くなっていく。

　……そろそろ十分だね！

　十分に鱗が熱せられたところで、私は魔力を高めて待機していたイルーシャの方を見る。

「いいよ、撃って！」

「はいっ！！」

　待ってましたとばかりに、イルーシャが氷の魔力を放った。

　冷気の嵐が吹き荒れ、熱せられていたはずの鱗がたちまち凍り付いた。

　イルーシャのやつ、いつの間にか腕を上げたなぁ。

　以前とは比べ物にならない魔力量に、私は内心で少し驚いた。

　私が見ていない間に、こっそり修行でもしていたのだろうか？

　――最近のララート様は頼りにならないので、頑張りました！

　本人に直接聞いたらこんなことを言われそうなのが、ちょっと悲しいところだけど。

「おっ？　これは……やったかな？」

　――ミシッ！

　一瞬で凍り付き、霜の張ったアースドラゴンの鱗。

　やがてそれが大きく軋むような音を立てた。

　よし、きたきた！

　――熱した鱗を一気に覚まし、熱膨張と熱収縮で鱗を叩き割る。

　現代知識を取り戻した私だからこそ思いついた作戦だ。

　後はもう一度、炎を叩き込めば……！

「あれ？　割れない？」

「え？」

「これで割れると思ったんだけど……！」

　大きく軋んだものの、アースドラゴンの鱗は割れなかった。

　もう一度、同じことをするしかないか？

　私がそう思った瞬間、巨大な背中がいきなりグラッと大きく揺れる。

「まずい！　フェルッ！！」

「わんっ！」

　再びフェルに飛び乗り、私たちは慌ててアースドラゴンの背中を離れた。

　直後、アースドラゴンは横に転がって背中を地面にこすりつける。

　危ない、危うく押しつぶされるところだった……！

　私とイルーシャはたまらず冷や汗をかく。

「ララート様、どうしましょう？」

「あれで行けると思ったんだけど、当てが外れちゃった」

　硬い物質であればあるほど、温度変化には弱いと聞いたことがある。

　なので、ほぼ確実にあの方法で叩き割れると思ったんだけど……。

　流石はドラゴンの鱗、物理法則を超越しているらしい。

　あーもう、こんなところでファンタジーに邪魔をされるとは！

　いや、エルフの私が言うことじゃないんだけどさ！

「おい、大丈夫か？」

　急いで地下への入り口があるあたりに避難すると、戦士長さんが慌てて声をかけてきた。

　私はフェルの背中から下りると、ひとまず首を縦に振る。

「なんとか。温度変化で鱗を割ろうとしたんだけど、割れなくて」

「なるほど。よく考えたと言いたいところだが、ドラゴンの鱗は火にも水にも強いからな。そう簡単には割れんさ」

「げ、戦士長さん知ってたんだ」

「あたぼうよ、ドワーフを舐めるな」

　流石はドワーフ、どうやらドラゴンの鱗も扱ったことがあるらしい。

　鍛冶専門みたいな種族なんだから、言われていればそれぐらいの知識はあって当然か。

「ううーん、しかしこれが通用しないとなると……」

「いよいよ、黄金石を放棄するしかないかもしれねえな」

「それはダメだよ。それに、あいつが黄金石の魔力を吸い取ったら……とんでもないことになる」

　昨日、調査をしたアースドラゴンの痕跡。

　あれを見る限り、アースドラゴンは魔力を喰らってどんどん強くなる性質を持っている。

　恐らくは、最近も黄金石の魔力の一部を吸収して強くなったばかりだろう。

　もしもこのアースドラゴンが、魔力のたっぷり集められた黄金石を丸ごと吸収したら……。

　最悪、私が自爆をしても止められないぐらいの化け物になるかもしれない。

　そうなったら、ドワーフたちの地下王国どころか人間たちの国もいくつか吹っ飛ぶだろう。

「……ララート様、また自爆するのだけはやめてくださいよ」

「わかってるって。あんなの私だってごめんだからね」

　ここで自爆して、イルーシャやフェルを悲しませるわけにはいかない。

　それにまだまだ、この世界を満喫してないからね。

　私に流行りたいことがたくさんあるのだ。

　とはいえ、この難敵をどう始末したものか……。

　考えを巡らせていると、ここで後ろにいたドワーフの戦士たちがどよめく。

「へ、陛下！？　なぜこんなところに！」

「ここは危険です！　すぐに城にお戻りください！」

　振り返ると、そこには先ほど見たドワーフの王さまが立っていた。

　王笏を大地に突き、王者に相応しい威風堂々とした佇まいである。

　彼はアースドラゴンの巨体を見据えたのち、私の方を見て言う。

「……エルフよ。こうなってしまっては、あのドラゴンを倒せるのはおぬししかいないであろう」

「期待してくれるのはありがたいけど、私もあれには苦戦中だよ」

「そなたに、あやつの鱗を穿つ技を教えてやる」

「技？」

「そうだ。魔力を用いて物質を変形させる技だ」

　それを聞いた途端、周囲にいたドワーフたちの顔色が変わるのだった。