第15話 旅の醍醐味
「んんー、美味しい!」
何とも香ばしい匂いの出所となっていた露店。
そこで私は街の名物だという干し肉の炒め物を買うと、すぐさま口に放り込んだ。
たちまち凝縮された肉の旨味と香辛料の刺激が食欲中枢をガンガン揺さぶってくる。
舌がピリッとして、こりゃごはんが欲しくなる味だね!
「このパンに挟んでみな!」
「お、いいね!」
「銅貨一枚だよ!」
「もう、商売上手だなぁ! はいよ」
露店のおじさんに言われるがまま、パンを買って肉を挟んでみる。
すると刺激がいい具合に中和されて、とってもいい。
柔らかく焼き上げられた白パンのボリューム感も最高だ。
オンザライスならぬ、インザパンって感じだね。
元日本人的には白米の方がやや勝るけど、この世界の人にはこれがベストかもしれない。
「わん、わん!」
「フェルも食べたいの? でも辛いよ?」
「わん!」
念のため尋ねるが、そんなの関係ないとばかりにフェルは尻尾を振っておねだりしてきた。
まぁ、精霊獣だし刺激物を食べてもたぶん大丈夫だろう。
私が肉を挟んだパンを差し出すと、フェルはすごい勢いでかぶりつく。
「わおぉん……!」
もうたまらんとばかりに、フェルは天を仰いで遠吠えを響かせた。
そしてそのまま、大きなサンドイッチをあっという間に食べつくしてしまう。
「口の周りが汚れてますよ」
イルーシャはすぐさまハンカチを取り出すと、フェルの口回りを掃除した。
お腹が満たされたフェルは、とってもご機嫌な様子でされるがままになっている。
「わうぅ……」
「さあ、そろそろ寄り道は辞めてギルドへ行きましょう! きっと、私たちの到着を待ってますよ」
「なら、おっちゃんエールちょうだい! あと炒め物も追加で!」
「ダメです! これからギルドへ行くのにお酒を飲んでどうするんですか!」
んぐぐ、あの炒め物には絶対にお酒が合うのに!
私はそう思ったが、イルーシャの言うことがあまりにも正論過ぎて反論できなかった。
一応、私たちはこの街へアースドラゴンの討伐に来ているのだ。
「だ、大丈夫! 他の冒険者の人だって、ギルドでお酒飲んでるじゃん!」
「あれは仕事が終わった後ですよ。仕事する前に飲む人はいません」
「イルーシャがロジハラする!」
「なんですか、ろじはらって」
「……こっちの話だよ!」
異世界にはまだ、ロジハラなんて概念は存在しなかった。
こうして私はイルーシャに半分引きずられて、仕方なく冒険者ギルドへと向かう。
通りを進んでいくと、冒険者ギルドを示す剣の紋章を掲げた大きな建物が目に飛び込んできた。
だいたい、どこの街にあってもギルドというのは似たような雰囲気となるらしい。
外観こそ他の建物と同様の石組だが、中に入ると内装はほとんどトゥールズの街と同じだ。
集まっている冒険者たちのレベルも似たようなものだろうか。
「こんにちは! 見慣れない方ですけど、旅の方ですか」
きょろきょろしているとすぐに、カウンターにいた受付嬢さんから声を掛けられた。
流石は接客業というべきか、街の冒険者でないかどうかはすぐに分かるらしい。
まあ、周囲の様子を見ていたから分かりやすかったのだろうけど。
「ええ。私たち、トゥールズの街からアースドラゴンの討伐に来たんだ」
「ああ、エルフの魔導師の方々ですか!」
イルーシャの予想は、どうやら正しかったらしい。
私たちが素性を名乗ると、受付嬢さんはすぐさま深々とお辞儀をしてきた。
どうやら、私たちの到着を相当に待ち侘びていたようだ。
「アースドラゴンのせいで、いまバターリャの街は大変なことになってるんです!」
「ありゃりゃ、何が起きてるの?」
「おや、見ませんでしたか? ついさっきも街の入り口で、ドワーフが揉め事を起こしていたでしょう?」
そう言うと、不思議そうに首を傾げる受付嬢さん。
……なるほど、今回の一件にはドワーフも関わっているのか。
たちまち、隣に立っているイルーシャの顔が険しくなった。
私としては別に、ドワーフに対しての悪感情は無いんだけど……。
向こうもエルフは嫌いだろうし、なかなかめんどくさいことになったな。
「ひとまず、詳しいことは領主さまからお聞きください」
「領主さま?」
「はい。今回の依頼主は、この街の領主さまなのです」
ドワーフに引き続き、今度は人間の貴族か。
いろいろと厄介そうな気配を感じた私は、たまらず渋い顔をするのだった。
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