『貴族交流パーティー』3


「零、それは何のポーズなんだ?」

「零お嬢様、かっこいいです…!!」

「ふ、ふぇ!?し、し、失礼しました」


 零士お兄様からは純粋に質問され真里からはなぜか褒められてしまい、慌てて取り繕う。


 ———勝利した時に高らかに拳を掲げるのは前世の時だけだった……。


「ふっ……懐かしい物を見た気がしたのじゃ。本題の『白い光』について教えるのじゃ」

「いえ、まずは『陽山侯爵子息』の件について………」

「あの件は気にせずとも良いのじゃ。それより、右手を出してみるのじゃ」

「こ、こうでしょうか?」


 雪凪殿下に言われた通り、右手を差し出す。


「ここを見るのじゃ」

「これは短剣の印でしょうか」

「うむ。生まれつき余の左眼は少々特殊で普通の人には見えないものが見えるのじゃ。先程、余が見たのは『魔素マナ』達が零を守るため、右手に入っていく瞬間じゃった」

「つ、つまり、零は伝説とされる『勇者』様かもしれないということですか?」

「う、うーむ……じゃがそれ以降、不思議なことに零の魔力がなくなっているのじゃ」


 雪凪殿下に言われた所へ視線を落とすと私の右手の甲に『短剣』のような印があった。


 零士お兄様は珍しく興奮気味、真里はキラキラと目を輝かせているが、雪凪殿下は悩んでいる様子で私も彼と同じ反応になる。


 ———どういうこと…


『恋クリ』の『零太』は王立魔法学院入学後のチュートリアルイベントを経て『聖剣レティシア』を入手し、『勇者』として認められる。


 確かに、私と同じように零太の右手の甲にも刻印が刻まれていた。ただ、その刻印は『短剣』ではなく『聖剣』だった。


 ———見ないことにはわからないからね……短剣よ………!!私に力を貸せ……!!


 私が心の中で唱えると私の手の甲が紫色に光始め、私の目の前に刻印通りの短剣が現れる。


「これは………」

 ———どうしよう…本当に出ちゃった……


 等身は光り輝く紫色の刃

 グリップの中央には大きな紫色の宝珠


 ———これは『勇者』じゃないとしてもそれに準ずる力が………

 

「ただの『短剣』じゃな………」

 ———え?

「ただの『短剣』ですね…」

 ———あれ?

「とても綺麗な『短剣』です…」

 ———終わった…………


「零士お兄様、真里、止めないでください!!」

「零お嬢様………!!いけません…!!」

「そうだぞ!!零、早まるな!!」

「私はもう……だめです!!光が見えません…!!」


 私が床へ正座をして、短剣を右手に天井へ振り上げてるところを見た零士お兄様と真里に静止されてしまう。


 もちろん、私自身も本気で死ぬつもりは毛頭ない。しかし、自分自身が『勇者』から『よくわからない者のポジション』へ転生させられた事にこの先の光が見えないのは事実である。



「其方にはこの世界でやるべき事があるじゃろう…。それにこの『短剣』は『魔素マナ』が作ったのじゃ。ただの『短剣』ではないと思うのじゃ」

「この世界でやるべき事……それってまさか」

「………静かにするのじゃ。今はパーティーに戻るのじゃ。余達は今日この『屋敷』で泊まるのじゃ。だから、夜更けに会うのじゃ」

「……かしこまりました」


 もうだめだ……と思い、床に崩れ落ちていたら、周りには聞こえない小さな声量で雪凪殿下から衝撃の事実が告げられる。


 ———やっぱ同士だったかぁぁぁぁ


 不思議と自分が『勇者』ではなかった事実よりも、同士を見つけた喜びの方が勝る。


 ———それに勇者やヒーローに憧れてるわけじゃない…。私は『手が届く範囲』だけ守ると決めていたではないか…!!


 …

 ……

 ………


 それにしても、なぜ『恋クリ』はライトノベルのようなゲームの攻略知識通りの展開に進まないのだろう………。


 ———そもそも私がそれで満足するならば、『噛ませ犬推し』を好きになっていない。


 絶望もすごいけど、同時に私の中で『無理ゲー』に近いにもかかわらずやる気で溢れる。


 ———やってやるんだ……


 魔法が当たり前の『恋クリ』の世界で『偽物』の『勇者』としてこの短剣1本で私の『噛ませ犬推し』と『大切な人達』を救うことを改めて決意する……。


 ———救った後に私をこの世界に呼んだ奴に笑顔で『ブイサイン』をお見舞いしてやる…!!


 私が現状を受け止めて、前へ進もうと顔を上げた頃には私の周りにいた真里も零士お兄様も雪凪殿下もとうにいなくなっていたらしい。


 …

 ……

 …………


 ———あれ、これ私の誕生日パーティも兼ねてるはずなのにぼっちじゃない??


『大人サイド』は相変わらず、グラスを片手に談笑でわけもわからない話で盛り上がっている。


『子供サイド』は『ファッキン陽山』の件もあってか、私が近づこうとすると逃げていく。


 ———あの中に私の『噛ませ犬推し』がいなかっただけマシと思うべきか…


 そう考えた私は『ファッキン陽山』の取り巻き達と鬼ごっこをすることで暇つぶしをした。


 ーーーーー


 暫く鬼ごっこをしていると、突如として煌びやかだったパーティー会場が薄暗くなる。


 それと同時にクラシカルなミュージックが流れ始め、壇上にライトが照らされる。


「今宵は当家主催の『パーティー』を楽しんでいただけましたでしょうか?色々な事がございましたが、最後はダンスで終わりましょう!!!!!」


 パチパチパチパチパチパチッ


 零夜お父様が壇上の方へ上がり、パーティーのゲスト達へ感謝を述べた。


 パーティー開始の挨拶をした私とは違って、すぐに盛大な拍手が巻き起こる。


 ———開始の挨拶はまばらな拍手だった。

 ———『ファッキン陽山』に負けかけた。

 ———自分が『勇者』だと勘違いしてた。

 ———いつのまにかぼっちになった。

 ———最後の挨拶は盛大な拍手だった。

 ———私のHPはもう0よ……


 先程まで『大人サイド』と『子供サイド』で別れていたゲスト達が混ざり合い、互いのダンスパートナーを探し始める中、私はすぐさま使用人達が控えてる場所へと移動する。


 ———私の踊る相手は決まっている…。


「真里、ご機嫌よう。よければ私と踊ってくれませんか?」

「え………でも、私は使用人……」

「いいえ。『陽山侯爵御子息』の時、今宵の真里花は私にとっての『勇者様』でした。それとも、私がダンスパートナーじゃ不満ですか?」

「いいえっ………いいえ。むしろ、私は誰よりも零お嬢様と踊りたいです」


 私が彼女に差し出した手に耳まで赤くなりながら、震える手で重ねてくれる。


ーーーーーー


「零お嬢様……固いです…ほら、力抜いて」

「こ、こうかしら」

「ええ。お上手です」

 ———結果、誘った私の方が踊れず、真里の方が華麗に踊れている……。恥ずかしい…。


 あの後、パートナーが決まった順からパーティー会場の中央付近へ移動を始めた。殆どの参加者がそれぞれのパートナーを見つけた頃合いに1曲目の『ワルツ』が流れ始めた。


 私が真里を誘ったのだから……そう考えて周囲の見様見真似の動きで真里をリードしようとしたら、油が切れたロボットのようなガチゴチダンスになってしまった……。


 ———コンナハズデハ…………


 結局、真里がリードを取ってくれることになり、曲目以降は力を抜いて真里のステップに身体を合わせるのに専念することとなった。


 自分の不甲斐なさを痛感しながら、真里任せとはいえ周囲のダンスと同様、彼女と私が綺麗に踊れていることに嬉しさも感じている。


 

「真里、ありがとうございました……」

「いいえ…零お嬢様と踊れたのは私にとっては夢のような時間でした」



 楽曲は5曲ほど続いた後、あっさりと終わりを迎えてしまった。そのため真里に私と踊ってくれたことに感謝を伝える。彼女も私の感謝に最高の笑顔で応じてくれた。


 ーーーーー


 他の人達は曲が終わる合間にパートナーをそへぞれ交代して行ったが、『子供サイド』で『雪凪殿下』以外敵の私が誘われるはずもい。


 その一方で『雪凪殿下』は『ファッキン陽山』の件がカッコよく映ったのか、参加している貴族の子女達にモテモテだった。


 ———なんか解せない…!!


 当然、その様子に『忠犬騎士団』が睨みや威嚇をしているみたいだが効果はないらしい。


 結局、私は真里と幸せな時間を過ごして『貴族交流パーティー』の終わりを迎えることとなった。


 ーーーーー


 なんとか波乱の『貴族交流パーティー』を無事に終え、真里の手に引かれるまま私は『本館』の試着室へと戻り元通りの化粧を落としてもらい、ラフな服装へと戻る。


「零お嬢様、使用人の私にあんな素敵な思い出をくださりありがとうございます」

「相手が貴族でも使用人でも関係ないよ。それにこれからもっと私と思い出を作ろう」

「それは零お嬢様から私はのプロポーズとお受けしても?」

「プロポーズ…?まだできる年齢じゃないよ…。でも、いつか真里となら………ふふっ」

「零お嬢様、もったいぶらないでください!!」



 試着室を出て真里とともに話しながら自室へ戻る途中、零夜お父様と零華お母様に応接室に呼ばれてしまった。


 そして、既に応接室にいた零士お兄様と共にパーティーの事の顛末を報告する事となった。


 ・『ファッキン陽山』が取り巻きを味方につけて、私を嵌めようとした。

 ・そんな時、零士お兄様と真里が身を張って助けてくれた。

 ・『ファッキン陽山』の取り巻きが投げたナイフに『魔素マナ』達が守ってくれた。

 ・その代わり私は魔力がなくなり、魔法が使えなくなった。ただ、『短剣』を召喚できる。



「そうか……。魔法が使えない……か。それは事実なのかい?それならば、王立魔法学院へ入学するのは………」


 零夜お父様も零華お母様も私の話を聞いてくださり、一喜一憂の反応をしてくれる。ただ、最後の報告でそんな2人も難しい表情となった。


「雪凪殿下の仰る事なので事実だと思います。ただ、私は王立魔法学院に通いたい………。だから、私に受験だけでもさせて頂けませんか?」

「零ちゃん………」

「私はこの『短剣』で必ず合格を果たします」

「合格できなかったならば……」

「はい。どのような家との『縁談』でもお受けするつもりです」


 頬が汗ばみ、両拳に力が入る。自分でも険しい道のりになることはわかっている。それでも、私は私の生き方を既に決めている。


「いいさ。やってみるといい」

「はい、零夜お父様、ありがとうございます!!」


 零夜お父様と真っ直ぐに目を合わせてお願いした結果、なんとか受験資格を得られた。


 ———だから第一関門となった半年後の王立魔法学院は『合格』してやるんだ。


 零夜お父様達に感謝を述べた後、私は応接室の扉を締めて廊下に出た所、真里が待ってくれていたらしい。


「私、零お嬢様と王都へ行って新しい環境でお世話をしてみたいです……」

「零夜お父様の領地も悪くはないけど………緑豊かだからね……。うん。王立魔法学院へ行く時は真里とともに……」

「一応ないとは思いますが、たとえ不合格でも…私はいつも零お嬢様の側にいます」


 真里は私の方へ近づき、私の首に両手を回して私の身体を包み込んでくれる。


「温かい……真里、ありがとう。でも、盗み聞きはだめですからねっ!!」

「また、バ、バレてしまいました」

「もうっ!!」



 絶対合格する——その決意を胸に刻み、私は盗み聞きがバレて逃げようとする真里を追いかけながら、自室へと戻った。


ーーーーーー


月明かりが沈み、完全に夜更けとなった頃合いに私は零夜お父様達と使用人達の目を盗んでエントランスを抜け出して誰もいないはずの真っ暗な『別館』の方へと移動する。



ーーーーーーー

物語の構想は一緒ですが原文からはかなりずれています苦笑















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